「自分の気持ちを伝えたら、なんだか空気が悪くなってしまった」「正直に言ったのに距離を置かれてしまった」。そんな経験をされた方にとって、「アサーション(自己主張)」は時に怖いものに感じられるかもしれません。
しかし、アサーションは本来、自分も相手も大切にする“程よい自己主張”のスタイルです。対人関係における過度な我慢は、うつ病や適応障害の引き金にもなり得るため、適切に気持ちや希望を伝えることは精神的な健康を守る上でとても大切です。
ではなぜ、善意や誠意を持って主張したのに「嫌われてしまう」ことがあるのでしょうか?本稿では、その背景や理由、そして対策について、精神科的観点から丁寧に解説します。
アサーションは、「言いたいことを我慢しないで、相手に配慮しながら伝える」コミュニケーション方法です。我慢を重ねてストレスを抱え込むよりも、適切に主張することで人間関係の軋轢を防ぐことができます。
しかし現実には、「アサーションしたら嫌われた」「それ以降、主張できなくなった」といった声も聞かれます。これは、アサーションに潜む“リスク”や“誤解されやすさ”を知っておく必要があることを意味しています。

アサーションに不慣れな場合、無意識に攻撃的な印象を与えてしまうことがあります。特に突然主張し始めると、周囲は戸惑いを覚えます。また、主張自体が“相手への要求”という性質を持つため、伝え方やタイミングを誤ると「強引」と受け取られやすくなるのです。
これらは、本人にそのつもりがなくても相手に不快感を与えてしまう可能性があります。
自己主張ばかりに偏ってしまうと、「奪うばかりの人(テイカー)」と認識されてしまうことがあります。これは「信頼残高」という人間関係のバランス感覚にも関わります。
つまり、主張は本質的に相手に“負担”をかける要素を含んでいるため、普段の言動で「与える(ギブ)」行動を取っていないと、関係全体として“赤字”となり、結果的に好意を失うことに繋がってしまうのです。
時には、相手自身が「不平等な関係」を望んでいる場合もあります。つまり、こちらが一方的に我慢し、相手だけが自由に振る舞うという関係性を維持したい人も存在するのです。
このような関係では、どれほど穏やかに、正当な主張をしても「面白くない」と感じられてしまい、反発される傾向があります。これは“支配欲求”や“マウント志向”が根底にある可能性も否定できません。

相手があまりに支配的で、どうしても対等な関係が築けない場合は、その関係の限界を認識し、「無理に合わせない」「穏やかに距離を取る」といった選択肢も必要です。
また、新たに対等に関われる関係性を築くこと、逃げ場をつくることが、長期的なメンタルヘルスを守るためにも重要です。
アサーションは、ただ言いたいことを言えばいいというものではありません。自分と相手の心を丁寧に扱うコミュニケーション技術であり、適切な準備と工夫、そして相手との関係性を読み解く力が求められます。
「アサーションしたら嫌われた」と感じたとき、その体験を単なる失敗ととらえるのではなく、より良い伝え方を探る学びの機会にすることが大切です。失敗しても大丈夫。やり方を変えれば、きっと次はうまくいくはずです。