双極性障害の理解と長期治療における課題:安定と回復を目指して
双極性障害(躁うつ病)は、適切な治療を行うことによって症状の改善が期待できる精神疾患です。しかしながら、その治療には長期的な取り組みが必要とされ、時に葛藤や迷いが生じることも少なくありません。本稿では、双極性障害の症状と治療法の基本、そして治療継続の上で重要となる考え方について丁寧に解説しながら、病気とともに生きるためのヒントを考えていきます。
双極性障害とは何か
双極性障害は、深い落ち込み(うつ状態)と異常な高揚感(躁状態)を周期的に繰り返す特徴を持った精神疾患です。うつ病とは異なり、その気分の波が上下に振れる点が特徴的で、脳のメカニズムの不調によって引き起こされると考えられています。治療においては、脳の状態を整える「気分安定薬」の継続的な服用が基本となり、再発を防ぐ上でも不可欠な要素とされています。
気分の4つの状態

双極性障害では、気分の状態が大きく以下の4つに分類されます。
主な治療法
双極性障害の治療は以下の3つを柱に行われます。
寛解と治癒の違い
双極性障害において「寛解」とは、薬を服用しながら症状がほとんど目立たなくなる状態を指します。一方で「治癒」とは、薬を使用せずに症状が安定することです。双極性障害では治癒に至るケースは非常に少なく、多くの場合は服薬の継続によって寛解状態を維持することが現実的な目標となります。
安定期に薬を中断すると、再発のリスクが非常に高まり、場合によっては以前よりも強い症状が現れることがあります。そのため、寛解状態を「ゴール」として受け入れ、継続的な治療を行う姿勢が大切です。
治療の4つの目標

1. 症状の改善
薬物治療を軸に、躁状態・うつ状態のいずれについても症状の緩和を目指します。特に躁状態は治療によって比較的コントロールしやすい一方、うつ状態の持続や気分の周期的な変動が長く続く場合もあるため、症状の軽減は段階的に進むことが多いです。
2. 再発の予防
双極性障害の再発は、患者本人の自己評価や生活の安定を大きく揺るがす要因になります。服薬の中断による再発では、時に社会的トラブルに繋がることもあり、慎重な対応が必要です。安定後も気分安定薬を続けることで再発のリスクを大幅に抑えることができます。
また、生活リズムの乱れは再発の引き金となるため、睡眠、食事、活動のバランスを整える生活習慣が重要です。気分に反する行動、つまり「うつ状態の時に動く」「躁状態の時に休む」といった対応も、症状の悪化を防ぐうえで有効です。
3. 疾患の受け入れ
長期にわたる治療と服薬が必要であること、そして多くの場合は「軽うつ状態」での安定にとどまる現実を受け入れることは、精神的な負担を伴います。社会的パフォーマンスが発症前と同等でない場合もあり、そこに葛藤が生まれることは当然です。
しかし、こうした現実をしっかりと見つめ、無理に過去の状態に戻ろうとするのではなく、「今の自分に合った安定」を目指す視点が必要です。
4. リカバリー(回復)
リカバリーとは単に社会復帰することではなく、「自分らしく生きる」ことを取り戻すプロセスです。病気を否定するのではなく、抱えている現実と向き合いながら、自己価値を再構築していく作業とも言えます。
双極性障害によって人生設計の変更が求められることもありますが、そこから新たな目標や生きがいを見つけることも可能です。社会的な地位や評価よりも、「今ここで生きている実感」や、「大切な人との関係性」に価値を見出すことが、人生を前向きに進める上で重要な鍵になります。
おわりに
双極性障害は、治療によって症状の改善は十分に期待できる一方で、再発のリスクや生活の変化に伴う葛藤と長く向き合う必要があります。治療の目標は以下の4つに集約されます。
発症によって失うものもあるかもしれません。しかし、その経験から新しい価値観や生き方を見出すこともできるのです。双極性障害を「乗り越える」のではなく、「ともに生きる」という視点が、これからの人生を豊かにする大きな一歩となるでしょう。