パニック障害の主な治療法3つ

はじめに

突然の激しい動悸、息苦しさ、めまい、そして「このまま死んでしまうのではないか」と思うような強烈な不安──これらの症状を引き起こす「パニック発作」を繰り返す病気、それが「パニック障害」です。これは、不安障害の一つに分類される精神疾患であり、その主な特徴は、突発的かつ激しい心身の不調が繰り返し起こることです。

発作を経験した人の多くは、再び同じ状況に置かれることへの恐怖から、特定の場所や行動を避けるようになります。こうした「回避行動」が続くと、症状が慢性化し、日常生活に大きな支障をきたすようになるため、注意が必要です。

しかしながら、パニック障害は適切な治療を受けることで、症状の改善が十分に期待できる病気でもあります。現在、治療法は一定の指針が確立されており、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、段階的に取り組んでいくことが重要です。

本記事では、パニック障害の主な治療法として広く行われている3つの方法──①抗うつ薬(SSRI)、②抗不安薬、③脱感作療法──について、それぞれの特徴や効果、副作用、使用上の注意点などを丁寧に解説していきます。

① 抗うつ薬 SSRI:不安の根本に働きかける薬

パニック障害の治療において、中心的な役割を担うのが「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」と呼ばれる抗うつ薬です。この薬はもともと、脳内のセロトニン不足が関係しているとされる「うつ病」の治療薬として使用されていました。

セロトニンは、感情の安定や心の落ち着きに深く関わる神経伝達物質です。パニック障害を含む多くの不安障害でも、セロトニンの働きに何らかの異常があると考えられ、SSRIの使用が効果的であることが分かってきました。

SSRIは、セロトニンの再吸収を防ぐことで脳内のセロトニン濃度を高め、不安や緊張を和らげる作用をもたらします。これにより、「予期不安」と呼ばれる「また発作が起きるかもしれない」という恐怖が和らぎ、パニック発作自体の頻度も抑えられていきます。

ただし、この薬には即効性がないため、効果が実感できるまでには通常2〜4週間ほどかかります。継続して服用することが大切であり、医師の指導のもと、焦らずに治療を続けていくことが求められます。

また、副作用としては、服用開始初期に吐き気や胃腸の不調などが起きやすい傾向があります。しかし、こうした副作用は一時的なものであり、数日から1週間程度で自然に落ち着くことが多いです。もう一つ注意すべき点は、自己判断で急に服用を中止すると「離脱症状」と呼ばれる不快な症状が出ることがあるため、薬の調整は必ず医師と相談しながら行う必要があります。

② 抗不安薬:発作時の「お守り」として

次に紹介するのが、「抗不安薬」と呼ばれる薬です。これは、パニック発作が実際に起きたときに用いられる、即効性のある薬剤です。中でも、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、服用後15〜30分ほどで効果を発揮し、発作による過度な緊張や不安を素早く和らげてくれます。

抗不安薬は、急な発作時に対処する「頓服薬」としての役割を持ちます。例えば外出時や電車に乗るときなど、不安を感じやすい場面で事前に服用することで、安心感を得ることができます。

また、薬そのものの効果だけでなく、「いざという時にこの薬がある」と思えることが、心理的な支えとなります。こうした意味で、抗不安薬は単なる薬以上に、「お守り」としての存在価値もあると言えるでしょう。

ただし、抗不安薬には依存性や耐性のリスクがあるため、長期連用は避け、あくまで必要なときに限定して使用することが原則です。日常的に使い続けると、薬に頼りすぎてしまい、かえって不安が増す場合もあるため注意が必要です。

③ 脱感作療法:不安と向き合うための行動訓練

3つ目に紹介するのは、「脱感作(だつかんさ)療法」、正式には「系統的脱感作法」と呼ばれる治療法です。これは、不安を引き起こす場面や状況に対して、段階的に慣れていくことを目的とした方法です。

パニック障害の患者さんは、発作の再発を恐れるあまり、発作が起きた場所やその周辺、あるいは似たような状況を避けるようになります。こうした「回避行動」は短期的には安心感を与えますが、長期的には行動範囲を狭め、生活の質を大きく損なってしまいます。

脱感作療法では、こうした回避行動を少しずつ減らし、不安を感じる場面に段階的に慣れていくことを目指します。例えば、電車に乗るのが怖い場合、最初は1駅だけ乗るところから始め、慣れてきたら3駅、5駅と徐々にステップアップしていきます。

重要なのは、「無理のない範囲で」進めることです。負荷が強すぎると、かえって発作が再発する恐れがあり、治療が逆効果になることもあります。そのため、事前に抗うつ薬で不安の土台を安定させたうえで、必要に応じて抗不安薬を携帯しながら、無理のない範囲で挑戦していくことが勧められます。

この治療は、前期・中期・後期の3段階に分けて考えると分かりやすいです。

  • 前期:抗うつ薬を服用し、心の土台を安定させる期間。
  • 中期:薬の効果を活かしながら、脱感作に取り組み、行動範囲を広げていく期間。
  • 後期:自信をつけつつ、脱感作を継続し、薬を徐々に減薬・中止することを目指す期間。

おわりに:回復への道筋は見えている

パニック障害は、その発作の激しさや不安の強さから、非常につらい症状と向き合うことになります。しかしながら、標準的な治療法が確立されており、焦らずに段階的に取り組んでいけば、改善を目指せる疾患でもあります。

基本となるのは、抗うつ薬SSRIによる不安の軽減、発作時には抗不安薬を安全に活用しつつ、行動範囲を狭めず、むしろ広げていくための脱感作療法を地道に行うことです。

一人で抱え込まず、信頼できる医療者や支援者とともに、回復の道を一歩ずつ歩んでいくことが何より大切です。恐れや不安はあっても、それに立ち向かう力はきっとあなたの中にあります。