躁状態の悪化を防ぐには?

はじめに

双極性障害(いわゆる躁うつ病)は、気分が極端に落ち込む「うつ状態」と、逆に気分が高まりすぎる「躁状態」を周期的に繰り返す病気です。その中でも特に注意が必要なのが、気分が高揚する「」の時期です。

躁状態は一見、元気に見えたり、意欲的に行動できたりすることから、本人や周囲が病的な状態であることに気づきにくい傾向があります。しかし、現実には判断力の低下や衝動的な行動が生じやすく、日常生活や人間関係、金銭面に大きな影響を及ぼす可能性があります。

そのため、躁状態の進行をできるだけ早い段階で察知し、適切な対応を取ることが、双極性障害の安定的なコントロールには欠かせません。本記事では、主に「治療の継続」「活動量の調整」「刺激のコントロール」の3つの観点から、躁状態の悪化を防ぐための工夫について解説します。

双極性障害とはどのような病気か?

双極性障害は、気分の振れ幅が非常に大きいのが特徴の精神疾患です。落ち込みが強い「うつ状態」と、テンションが高くエネルギーにあふれる「躁状態」とが交互に現れます

この病気は、気分や行動をコントロールする脳の働きに変調が生じることで起こると考えられており、気分の波を抑えるための「気分安定薬」が治療の柱となります。薬を継続的に服用することで、症状の再発を防ぎ、生活の安定を保つことが可能になります。

躁状態のリスクと注意点

躁状態のリスクと注意点

躁状態になると、普段よりも頭の回転が速くなったように感じたり、活動意欲が大きく高まったりすることがあります。さらに、自分には何でもできるといった万能感が生まれ、自信にあふれる行動が目立つようになることもあります。

しかしこの状態は、良い意味での「元気」とは異なります。気分が過度に高ぶった結果、ストレスに対して敏感になったり、他者との摩擦が生じやすくなったりする危険もあるのです。加えて、浪費や無謀な投資など経済的な損失につながる行動を取ってしまうことも少なくありません。

軽躁状態での早期対処が鍵

躁状態の一歩手前には、「軽躁状態」と呼ばれる比較的軽度の高揚状態があります。この段階では、まだ重大な問題が起きる前であり、本人にもある程度の自己コントロールが残っていることが多いです。

この軽躁の時点で自分の変化に気づき、対処を始めることができれば、躁状態への進行を防ぐことも可能です。ただし、軽躁状態のときには「今の自分は調子が良いだけ」と感じることが多く、なかなか異変として捉えるのが難しいという側面もあります。

そのため、日頃から「このような時には注意が必要」と意識しておくことが、早期対応の鍵となります。

躁状態の悪化を防ぐための3つの工夫

治療を途中でやめない

気分が高揚していると、「もう薬は必要ない」と感じてしまうことがあります。特に軽躁や躁の時期には不快な症状があまりないため、薬の副作用のほうが気になるようになり、治療へのモチベーションが下がってしまうケースが多く見られます。

しかし治療の中断は、躁状態の急激な悪化や、次のうつ状態への急な転落につながる危険があります。たとえ今の状態が良いと感じても、病気の波を長期的に抑えるためには、治療を継続することが何よりも大切です。

通院を続けていれば、症状に応じた薬の調整も可能になります。もちろん、気分安定薬には眠気や倦怠感などの副作用がある場合もありますが、それは回復の過程の一部でもあります。この副作用とどう折り合いをつけていくかが、回復への重要な一歩になります。

活動量を抑えて過ごす

活動量を抑えて過ごす

うつ状態では、気持ちを前向きにするために「行動を増やす」ことが勧められることがありますが、躁状態では逆に「活動を控える」ことが求められます。これは、軽躁や躁の状態では自然と行動量が増え、そのまま症状の悪化につながってしまうことが多いためです。

特に注意したいのが、睡眠時間の確保です。躁状態では「少しの睡眠で大丈夫」と感じやすくなりますが、睡眠不足はさらに症状を悪化させてしまう要因となります。なるべく決まった時間に寝て、起きるといった生活リズムを保つことが大切です。

もし睡眠が十分にとれない場合には、主治医に相談し、睡眠導入薬の使用などを検討することも一つの手です。

外部からの刺激を意識的に減らす

躁状態になると、脳が刺激に過敏になり、次から次へと新しい刺激を求めるようになります。派手な音楽、人混み、光の強い場所、SNSなどの情報の洪水──これらすべてが気分の高まりをさらに助長してしまいます。

そのため、意識的に静かな環境を作り出す工夫が求められます。たとえば、テレビやスマートフォンの使用時間を制限したり、リラックスできる音楽や照明を取り入れたりするなど、心身を落ち着ける工夫を取り入れてみましょう。

また、アルコールやカフェインの摂取も気分を刺激しやすいため、なるべく控えることが望ましいです。加えて、ギャンブルや投資など刺激の強い活動も、長期的なダメージにつながるリスクが高いため注意が必要です。

問題は、躁状態のときには「刺激を避けること自体がストレスになる」という点です。そのため、気分が落ち着いている段階から「なぜ刺激を減らすことが大切なのか」をしっかりと理解しておくことが、実際の場面で役立ちます。

終わりに

双極性障害における躁状態は、本人にとっても周囲にとっても、さまざまなトラブルを引き起こす可能性があります。だからこそ、次の3つの点を意識的に実践することが、日々の安定にとって大きな助けになります。

治療を継続すること

調子が良く感じられるときこそ、治療を続ける意義を忘れないようにしましょう。

活動量を調整すること

動きたくなる気持ちを少し抑えて、生活リズムや睡眠を大切にすることで、気分の波を穏やかに保つことができます。

刺激との距離をとること

情報や音、光、対人関係などの刺激に飲み込まれないように、意識的に「静けさ」を選ぶ習慣をつけましょう。

これらは、いずれも無意識のうちにはなかなかできないことばかりです。そのため、「今は安定しているからこそできる準備」が、将来の自分を守る力になります。