自閉スペクトラム症(ASD)という言葉は、近年、徐々に社会の中で浸透してきました。しかし、その中でも「女性のASD」については、まだまだ理解が十分とは言えません。特に“受動型”と呼ばれるタイプの女性のASDは、周囲から気づかれにくく、「困っているのに支援が届かない」という状況に陥りがちです。
この記事では、女性のASD(受動型)の特性が現れやすい3つの場面を通じて、その特徴と気づくためのポイントを解説します。本人や周囲の人が理解を深めることで、生きづらさの軽減や適切な支援につながるきっかけになれば幸いです。

受動型ASDの女性は、目立ったトラブルを起こさず、周囲の期待に応えようとする傾向が強いです。そのため、学校では「まじめでおとなしい子」、職場では「素直で指示に従う人」として見られることが多く、問題が表面化しにくくなります。
しかし、その内面では「何を考えているか分からない」「指示がないと動けない」「突然パニックになる」といった特性が隠れていることもあります。周囲の目を気にして、必死に空気を読もうとするあまり、常に過緊張状態になってしまっている場合もあります。
たとえば、曖昧な指示に対応できず混乱してしまったり、同僚との雑談についていけず一人で悩んでいたりしても、それを表に出さず我慢していることが少なくありません。「ちゃんとしているのに、急に体調を崩す」「責任感が強すぎて潰れてしまう」といった状況がある場合、その背景にASDの特性が隠れている可能性があります。

受動型ASDの女性は、他者の感情を優先するあまり、自分の気持ちを後回しにしてしまう傾向があります。「空気を読まなければいけない」「みんなに合わせなければならない」と思い込み、自分の意見を主張することに強い不安や罪悪感を抱えるのです。
このような特徴は、一見すると「協調性がある」と受け取られがちですが、実際には大きなストレスを抱えています。断りたい誘いや頼まれごとを受け入れ続けるうちに、疲弊してしまい、結果として人間関係を避けるようになってしまうこともあります。
また、相手に合わせるあまり、自分の意思を見失ってしまうケースもあります。たとえば、友人との約束を無理に引き受けてしまい、体調を崩してしまったり、恋人に支配されるような関係になってしまったりする場合もあります。「なぜあの時、NOと言えなかったのか」と自己嫌悪に陥ることも多く、対人関係の悩みは深刻になりがちです。

受動型ASDの女性は、日中の社会的なふるまいの中で多くのエネルギーを消耗しています。人との会話、感情の調整、表情のコントロール、言葉選び――それらすべてを意識的に行うことで、自分を「普通に」見せようとしているのです。
そのため、家に帰って一人になると、緊張の糸が切れ、まったく動けなくなってしまうことがあります。食事や入浴すらままならない、何も考えられない、横になったまま何時間も過ごしてしまう――そんな状況が日常的に起きている場合、単なる「疲れ」ではなく、ASDの特性による過負荷の可能性があります。
このような「エネルギー切れ」は、外からは見えにくく、本人も「自分が怠けているだけ」と誤解してしまうことがあります。けれども実際には、人一倍努力して日常生活を維持しており、その反動が一気に出ているだけなのです。
受動型ASDの女性は、自分の中で葛藤を抱えていても、周囲には「困っていない人」として映ることが多いため、支援の対象になりにくい傾向があります。しかし実際には、強いストレス、不安、過緊張、自己否定などを日常的に抱えており、心身の不調を起こしやすいのです。
学校では不登校、職場では離職、家庭内ではメンタル不調といった形で初めて表面化することも少なくありません。その時になって初めて、「あの子、実は無理をしていたのかもしれない」と気づくことも多いのです。
ASDという診断がすぐに必要かどうかはともかくとして、「もしかして、そういう特性があるのかもしれない」と気づくことが重要です。そして、その特性に合わせた生活環境の調整や、無理をしない働き方、人間関係の築き方を模索していくことで、心の安定が得られる可能性が高まります。
また、周囲の人が理解を持つことも非常に大切です。本人が自分の特性を否定せずに受け入れられるよう、温かく見守ることが、何よりも有効な支援になります。
女性のASD(受動型)は、目立たないからこそ見過ごされやすく、支援の手が届きにくいという現実があります。しかし、ちょっとした気づきが、その人にとっての大きな転機になることもあります。「なんとなく生きづらそう」「疲れているように見える」――そんな小さな違和感を大切にし、理解を深めていくことで、誰もが生きやすい社会に一歩近づけるのではないでしょうか。