不安障害の治療薬は抗不安薬?──現在の主流はむしろ「抗うつ薬」
かつて「不安障害の治療」といえば、真っ先に挙げられていたのは「抗不安薬」でした。しかし、近年ではその治療方針に変化が見られるようになり、むしろ現在の主流は「抗うつ薬」、とくにSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)へとシフトしてきています。では、なぜそのような変化が起こったのでしょうか? 今回は、不安障害の基本的な理解から、薬物療法の変遷、そして現在の臨床現場での対応まで、丁寧にご紹介していきます。
不安障害とは──生活に支障をきたす強い「不安」
不安障害とは、文字通り「不安」が日常生活にまで影響を及ぼしてしまう精神疾患です。単なる心配性とは異なり、本人が強い不安や恐怖を感じ、それによって学校や仕事、人間関係に支障が生じることが特徴です。
その種類も多岐にわたります。代表的なものには以下のようなタイプがあります。

これらの治療には「薬物療法」と「精神療法(とくに脱感作や認知行動療法)」が主に用いられます。
抗不安薬とは? 即効性が魅力の一方、依存性が課題
抗不安薬は、いわゆる「ベンゾジアゼピン系」と呼ばれる薬が代表です。これらは即効性があり、不安を感じているその瞬間に症状を和らげてくれるというメリットがあります。しかし、その反面、長期使用によって「依存」や「耐性」の問題が指摘されています。
代表的な抗不安薬
これらの薬はあくまで「症状を一時的に抑える」ものであり、根本的な治療とは異なります。
なぜ最近は「抗うつ薬」が主流に?
ここ数年、不安障害の薬物療法は「抗うつ薬」へと移行してきました。特に、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、不安障害の治療においても第一選択肢となりつつあります。
この背景には大きく3つの要因があります。
① 不安障害のメカニズム解明
かつては、「不安」は心理的な問題とされてきましたが、最近では脳内の神経伝達物質、特にセロトニンの不足が関与していることがわかってきました。これはうつ病とも共通するメカニズムであり、SSRIによってセロトニンを補うことで、不安症状の軽減が期待できるのです。
② 抗不安薬の依存性
特に短時間作用型の抗不安薬を長期間使用すると、依存が生じやすくなることが分かってきました。そのため、現在では抗不安薬の使用はできる限り短期間に留め、必要に応じて頓服として使うケースが主流です。
③ 脱感作療法との相性の良さ
脱感作療法とは、不安の対象に少しずつ慣れていくことで、恐怖心を克服する精神療法です。SSRIのように内因的な作用で不安を和らげる薬は、この脱感作療法と非常に相性が良く、治療の相乗効果を期待できます。

それでも抗不安薬が「有効」な場面とは?
では、「抗不安薬はもう使われないのか?」というと、必ずしもそうではありません。以下のようなケースでは、今なおその有効性が評価されています。
急性で一過性の不安
試験や面接、大きなイベントなど、一時的に強い不安が予想される場面では、即効性のある抗不安薬が役立ちます。あくまで短期使用で「その場を乗り切る」ことが目的です。
抗うつ薬の副作用が出やすい場合
SSRIは効果が現れるまで2〜4週間程度かかるうえに、初期には吐き気や不眠などの副作用が出ることがあります。こうした副作用が辛い時期を乗り越えるために、抗不安薬が併用されることもあります。
頓服としての使用
とくにパニック障害では、発作が起きたときに服用する「お守り」としての役割を果たすことがあります。実際に使わなくても「手元にある」だけで安心感が得られることも治療の一環です。
結論──それぞれの薬には「適した場面」がある
今回の問い「不安障害では主に抗不安薬を使うのか?」に対する答えは、「最近は抗うつ薬SSRIが治療の中心だが、抗不安薬も状況に応じて有効である」となります。
抗不安薬は即効性と副作用の少なさが魅力であり、急性の不安には特に効果的です。一方で、慢性的な不安障害の治療には、より根本的なアプローチが可能なSSRIのような抗うつ薬が適しており、それを基盤にした脱感作療法の併用が主流となっています。
患者さん一人ひとりの症状や生活背景に合わせて、薬物療法の選択肢も柔軟に対応する必要があります。今後もさらなる研究と臨床現場の知見の蓄積により、不安障害の治療は進化していくでしょう。