精神疾患は非常に多岐にわたるため、原因や症状などに基づく分類が、理解を深める上でかぎとなります。国際的な分類基準の一つに、WHO(世界保健機関)が策定したICD-10(国際疾病分類第10版)があります。精神科領域では「F0」から「F9」まで、10のカテゴリーに分類され、それぞれに対応する具体的な疾患が示されています。
現在は改訂版ICD-11への移行も進んでいますが、この記事ではICD-10に基づいて精神疾患の全体像を整理し、さらに代表的な疾患の治療例も紹介します。
脳の器質的(構造的)な異常による精神障害を指します。外傷、脳血管障害、変性疾患などが原因となります。
脳の神経細胞が徐々に脱落していく病気です。治療では、進行を遅らせる目的でコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)が用いられ、症状に応じた介護・リハビリも重要です。
脳梗塞や脳出血の後遺症により認知機能が低下します。血圧管理や抗血栓薬の使用が予防と治療の柱です。
幻視やパーキンソン症状を伴います。抗認知症薬と合わせて、幻覚への対応に注意します。
入院や手術後に一時的に見られることが多く、原因除去、環境調整、必要に応じて抗精神病薬(ハロペリドールなど)で対応します。
精神作用物質(アルコール、薬物、カフェイン等)による依存症や精神障害です。
自己コントロールが困難になり、飲酒を続ける状態です。治療は断酒を基本とし、抗酒薬(ジスルフィラム)や抗渇望薬(アカンプロサート)を使用し、心理社会的治療(例:断酒会への参加)も行われます。

現実との接点を失い、幻覚や妄想を呈する疾患群です。
幻聴、被害妄想、思考障害が現れます。治療は抗精神病薬(リスペリドン、オランザピンなど)を中心に、リハビリテーションや認知行動療法も取り入れます。
特定の妄想が長期間持続します。薬物療法に加え、妄想に巻き込まれない対応が必要です。
気分の異常な高揚(躁)や抑うつ(うつ)を主体とする疾患群です。
躁とうつを繰り返します。気分安定薬(リチウム、ラモトリギン)と、状態に応じた心理療法(例:気分日誌の記録)が治療の中心です。
意欲低下、抑うつ気分、希死念慮がみられます。抗うつ薬(SSRI、SNRI)に加え、認知行動療法(CBT)や休養も重要です。

強い不安やストレスに関連する精神障害群です。
人前で極度に緊張する症状。SSRIや認知行動療法(暴露療法)が治療の柱です。
突然の強い不安発作に襲われます。抗うつ薬の服用をしながら、発作への認知再構成を行います。
強迫観念に支配され、手洗いや確認などの強迫行為が症状として出ます。治療はSSRIに加え、エクスポージャー療法(不安に耐える訓練)を行います。
環境変化にうまく適応できずにうつ症状等が出ます。うつ病と異なり脳の不調という側面は少ないです。環境調整とストレスマネジメントが治療の柱となります。
体の状態と密接に結びついた精神障害群です。
治療は栄養管理、精神療法(認知行動療法・家族療法)を組み合わせます。重症例では入院が必要になります。
睡眠習慣の是正(睡眠衛生指導)に加え、抗不安薬や睡眠薬(ゾルピデムなど)を慎重に使用します。うつ病などの症状の1つとして現れることもあれば、不眠症がきっかけで、他の精神疾患を発生させたり悪化させたりすることもあります。

性格の極端な偏りにより、社会生活に支障をきたす障害です。
感情の激しい波と対人関係の不安定さが特徴。治療は対話的行動療法(DBT)が有効とされます。
自己中心的な思考と対人トラブルを生みます。自己理解と共感能力を高める心理療法が主体です。
生来の知的機能の発達遅延です。IQ70~85は境界知能とされ、障害とされないことが多いです。
IQ50~70が軽度知的障害(F70)、IQ35~50が中等度知的障害(F71)、IQ20~35が重度知的障害(F72)、IQ20未満が最重度知的障害(F73)とされます。
就労支援や生活スキル訓練を行います。特別支援教育や福祉サービスの利用が重要です。
発達の過程で現れる社会性・言語・運動機能などの障害です。
社会性の障害と強いこだわりを示します。療育(社会スキルトレーニング、構造化支援)や、必要に応じて刺激過敏を緩和する薬物療法(リスペリドン少量使用)が行われます。
特定の学習分野にのみ困難が生じます。専門的な学習支援が重要です。
主に発達過程での行動や感情面の問題を指します。
注意力散漫、多動、衝動性が特徴です。治療は薬物療法(メチルフェニデート製剤)と行動療法(行動契約、トークンエコノミー法)を組み合わせます。
まばたき、顔のしかめなどが出現します。環境調整や重症例にはドーパミン拮抗薬の使用も検討します。
精神疾患は非常に幅広く、原因、症状、治療法も多種多様です。 ICD-10ではF0からF9までの10分類に体系化されており、それぞれの疾患には特有の治療方針があります。近年では薬物療法だけでなく、心理社会的支援やリハビリテーションも治療に不可欠です。
疾患特性を正しく理解し、個々の患者に適した支援を組み立てることが、治療成功の鍵となるでしょう。