はじめに
「発達障害がある自分が自己主張したら嫌われてしまった」
そんな経験をした方は、少なくないかもしれません。周囲との関係を大切にしたいと思えば思うほど、自分の気持ちを伝えた結果、否定的な反応を受けると、大きなショックを受けてしまいます。
結論から言えば、現実は時に残酷です。正直に思いを伝えただけなのに、相手の反応が冷たかったり、距離を置かれたりすることもあるでしょう。しかし、それで「もう何も言わない方がいい」と心を閉ざしてしまうのは、長期的に見ると自分をより苦しめてしまう可能性があります。
大切なのは、「どう乗り越えていくか」。その道を一緒に探っていきましょう。

対人関係は、日々の生活の中でもっともストレスの原因になりやすいものの一つです。特に発達障害がある方にとっては、「何をどう伝えればいいのか分からない」「空気が読めないと言われる」といった悩みがつきまといます。
自己主張(アサーション)とは、自分の気持ちや考えを正直に、しかし相手を傷つけずに伝えるコミュニケーションの方法です。この「程よい主張」ができるようになると、ストレスを抱えにくくなり、精神的な安定にもつながるとされています。
自己主張には、以下のような良い影響があります。
特に、不安傾向の強い方にとっては、少しずつ主張することに慣れていくことで、自己肯定感の向上や人との関係における自信につながるケースもあります。

とはいえ、発達障害がある場合、アサーションを実践するにはいくつかの壁があります。
例えば、ASD(自閉スペクトラム症)の特性として「空気が読みにくい」「相手の立場を想像しにくい」「自分の興味・意見への強いこだわりがある」といった傾向があります。そのため、意図せずに相手を不快にさせてしまうことがあります。
また、ADHD(注意欠如・多動症)の場合は、「衝動的に話してしまう」「タイミングを考えずに言ってしまう」といったことが原因で、相手に“自己中心的”だと受け取られてしまうこともあります。
これらの傾向があると、どうしても次のようなズレが起きやすくなります。
こうした経験が積み重なると、「どうせまた嫌われる」「何を言っても通じない」と感じるようになり、最終的には主張そのものを諦めてしまうことがあります。これを「学習性無力感」と言い、本人の自己肯定感を大きく損なう要因にもなります。

では、発達障害がある中で、どうすれば適切な自己主張ができるようになるのでしょうか。ひとつの鍵は、「主張する前に相手を観察すること」です。
発達障害があると、直感的に相手の感情やニーズを読み取るのが難しいことがあります。しかし、それは「できない」のではなく、「学び方が違う」というだけです。
そこでおすすめなのが、理論的に相手の反応や行動パターンを学ぶ方法です。
また、自分の主張が「相手にとってプラスになるか」を考える視点も大切です。
主張には大きく分けて2つの種類があります。
できるだけ「与える主張」を心がけることで、相手からも受け入れられやすくなります。もし「奪う」内容であっても、同時に何かを「与える」工夫ができれば、主張の印象は大きく変わります。
たとえば、ただ「休ませてほしい」と言うのではなく、「その分、別の日にカバーします」と伝えるだけでも、相手の受け取り方は変わるはずです。
そしてもうひとつ重要なのが、非言語コミュニケーションの意識です。声のトーン、表情、姿勢などは、言葉以上に相手に印象を与えます。役者が練習するように、日常の中でも「どう見られているか」を意識してみることは、実はとても実用的な訓練になります。
発達障害があると、自己主張がうまく伝わらずに誤解されたり、相手との関係がぎくしゃくしてしまったりすることは、誰にでも起こりうる現実です。ときには、その結果として「嫌われた」と感じるような出来事もあるかもしれません。
しかし、それで完全に黙ってしまうことが、必ずしも最善とは限りません。大切なのは、自分の気持ちを無理に押し通すことではなく、「伝え方」と「伝えるタイミング」を工夫すること。そして何より、相手に何を与えられるかという視点を持つことです。
とはいえ、世の中には正論が通じない場面もあります。相手の気分、立場、職場の空気など、自分ではコントロールできない要素も少なくありません。そうした「不条理さ」もまた現実の一部です。
その現実を受け止めながら、できる範囲でできる努力を重ねていく──それこそが、発達障害と共に生きる中での、現実的で誠実な向き合い方なのかもしれません。
あなたの声は、あなたの大切な一部です。伝えることを、どうかあきらめないでください。