ASDです。苦手な運動をするべきですか?

自閉症スペクトラム障害(ASD)は、「社会性の障害」や「こだわりの強さ」といった特徴を持つ発達障害です。生まれつきの特性であり、幼少期に気づかれることもあれば、大人になってから診断を受けることもあります。

ASDのある人の中には、「運動が苦手だ」と感じる方が少なくありません。これは、発達性協調運動障害(DCD:Developmental Coordination Disorder)を併存している場合が多いからです。DCDとは、体のさまざまな部位を協調して動かすことが極端に苦手な状態を指し、不器用さやぎこちなさ、独特な身体の動きなどが現れます。

このような背景を持つASDの人にとって、「苦手な運動に取り組むべきか」は大きな葛藤を伴う問いとなります。しかし、そこには確かに意味があり、慎重かつ継続的な取り組みによって得られるものも少なくありません。

発達性協調運動障害(DCD)とは

DCDは、以下のような日常の動作に苦手さを感じることが多い障害です。

  • 字を上手く書けない(筆圧や形の安定しなさ)
  • 姿勢が崩れやすい(椅子に長く座っていられないなど)
  • 球技が苦手(タイミングの取り方や力加減が難しい)
  • 発音が苦手(口の動かし方や呼吸の調整が難しい)

このような困難は、日常生活だけでなく、学校や職場といった集団場面での不適応にもつながりやすく、本人にとって大きなストレス源となります。

特にASDの人にとっては、自分の感覚や身体への不確かさ、思うように動かないことからくる表現の苦手さが、さらに自己否定や苦しみを深める要因にもなります。

子ども時代の支援と大人の現実

小児期には、DCDへの対策として、早期発見と療育的アプローチが重視されます。理学療法、作業療法、感覚統合などを通じて、「動くこと」を繰り返し練習することが基本となります。

しかし、成人になってから支援を受ける機会は少なくなり、「自分で対策するしかない」という状況に直面します。とはいえ、大人にとっての対策も存在し、その鍵となるのが「運動習慣の確立」です。

これは単に体を動かすことではなく、頭で考え、観察しながら、慎重に自分の動きを確認し、繰り返していくというアプローチです。運動における「困難を乗り越える力」は、人生全体にも波及し得る重要なテーマです。

大人が運動を継続するうえでの三つの壁

では、ASD+DCDの大人が運動に取り組む際、どのような困難があるのでしょうか。大きく分けて、次の三つの壁が存在します。

すぐに効果は出ない

体の機能改善は、リハビリと同じように時間のかかるものです。努力が結果に結びつくまでには数ヶ月、場合によっては年単位の時間が必要です。

この「苦手なことを長期間行う」こと自体が、ASDの人にとっては非常にストレスになります。そのため、「内発的動機づけ」、つまり「自分の意志でやる理由」がない限り、続けることは困難です。

周囲から認められにくい

いくら努力しても、他者と比べたときの「優位性」が得られにくいのも現実です。たとえば、スポーツの場面では、努力しても「できない人」と見なされてしまうこともあります。

むしろ、不器用な努力がからかわれることすらあるかもしれません。だからこそ、「他者軸」ではなく「自分軸」での取り組みが重要です。他人にどう見られるかより、「自分がどう感じるか」に焦点を当てる必要があります。

学習性無力感の影響

ASDの人の多くは、過去の失敗経験から「どうせ自分にはできない」と感じやすい傾向があります。これを「学習性無力感」と呼びます。

この無力感を乗り越えていくには、心理的な痛みを伴いつつも、過去の記憶を「上書き」していく必要があります。そのためには、「覚悟」と「やりきる理由」が求められます。

それでも取り組む意味:得られる三つのこと

ここまでの困難を乗り越えて、苦手な運動に取り組んだとき、得られるものは非常に大きなものです。

改善する

時間はかかっても、自分の中で「できるようになること」は確かにあります。運動面での強い困難が和らげば、日常生活にも余裕が生まれ、結果的に「本来の自分の強み」を活かしやすくなります。

他の分野にも応用できる

苦手に向き合い、改善していくプロセスは、他の「小さな苦手」にも応用が可能です。たとえば、対人関係、仕事、生活の中での細かなタスクなど。

また、得意と思っていた分野にある「隠れた苦手」や「伸び代」を見つけ出すこともでき、「新しい視点」を得るきっかけになります。

自己肯定感が育つ

学習性無力感を乗り越えた経験は、「自分にもできることがある」という確かな自信になります。その余力が、他者への理解や共感にもつながり、対人関係の改善にも寄与します。

また、新しい挑戦にも「ひるまない自分」を育てていく力となります。

まとめ

ASDの人は、しばしば発達性協調運動障害(DCD)を併発しており、日常生活や社会活動において困難を感じることがあります。

大人になってからの改善には、「運動習慣の確立」が重要ですが、効果の見えにくさ、周囲の無理解、学習性無力感などから、その実践は決して容易ではありません。

それでも、取り組むことで得られる改善、自分自身への信頼感、そして人生全体へのポジティブな影響は非常に大きなものです。

苦手だからこそ向き合い、乗り越える。そのプロセスは、自分を肯定し、豊かに生きるための力強い土台となるのです。