パニック障害(Panic Disorder)とは、強烈な恐怖と不安に繰り返し襲われる病気です。動悸や息苦しさがエスカレートしていき「死んでしまうのではいか」というほど混乱してしまうこともあります。このような状態をパニック発作といいますが、多くの患者さんが「逃げ出せない」と感じるような状況で生じます。
これを広場恐怖(agoraphobia)といいます。
このようなパニック障害は症状も目立つので一見はっきりします。ですが、病気の本質はもっと違うところにあることも少なくありません。精神科では「症状だけをみて患者をみない」と、診断も違えばうまく治療もできません。それでは、パニック障害はどのようにして診断がつけられるのでしょうか?
パニック障害の考え方は近年少し変わりました。ここでは、最新の診断基準のDSM-Ⅴをもとにしてパニック障害の診断について考えていきたいと思います。
パニック障害では強烈な恐怖と不安に繰り返し襲われます。パニック発作への恐怖から予期不安が生じ、そのせいで生活が回避的になってしまいます。最新の診断基準では、パニック障害と広場恐怖症は独立した病気と位置付けられました。
パニック障害で感じる恐怖や不安があまりに強烈な場合「このまま死んでしまうのではないか」「発狂してしまうのではないか」といった恐怖にまで発展することも少なくありません。このような症状をパニック発作といいます。パニック障害の患者さんの多くにとって、「逃げ場がない」と感じた際にパニック発作が起こりやすいといわれています。この「逃げ場がない」恐怖を、広場恐怖といいます。
パニック発作を一度経験してしまうと「またパニック発作が起こってしまうのではないか」と予期不安につきまとわれ、苦手な状況や自信がないことを避けるようになってしまい、最終的にはだんだんと日常生活ができなくなっていきます。
このパニック障害は、最近になって診断基準が変更されました。これまでの診断基準では、まずパニック発作を診断してから広場恐怖かどうかを判断していました。広場恐怖はパニック障害に付随して起こる症状という考え方だったのです。それが最新のDSM-Ⅴという診断基準では、パニック障害と広場恐怖症は別々の独立した病気と考えられるようになりました。広場恐怖はパニック障害と関係なしに起こる病気という考え方になったのです。
その点を踏まえて、パニック障害の診断の流れをみていきましょう。

最新の国際診断基準にはICD-10とDSM-Ⅴの2つがあります。DSM-ⅤはAPA(米国精神医学会)によるもので、上から順番にチェックしていくと診断ができるようになっています。これに対して ICD-10はWHO(世界保健機関)による基準で典型的な症状を文章で記述しています。ICD-10は1990年に作られた診断基準のため、病気の「考え方」が当時と変わっているケースも少なくありません。
原則はより新しいDSM-Ⅴの診断基準にそって診断していきます。パニック障害のような心の病気の診断は身体の病気のように検査で客観的に診断できるものではありません。医師が自分の感覚で勝手にパニック障害と診断してしまうと同じ症状でも人によって診断がバラバラになってしまいます。このため、パニック障害にも診断基準が作られていて、それに従って診断していきます。
ICD-10とDSM-Vでは病気に対する「考え方」が異なることを先に述べましたが、パニック障害もそのひとつで、2013年に最新版が発売されたばかりのDSM-Ⅴとは違いがあります。その最も大きな点が、先ほどお伝えした広場恐怖症に対する考え方の変化です。
ICD-10では、発作の頻度を基準にパニック障害の重症度を分類しています。1ヶ月に4回以上発作が起こると「中等度」発作が1週間に4回を超えると「重度」と判定されます。これらの基準を採用することで、これまで多かった医者による診断のばらつきが改善されました。その一方で、文字面をおって診断してしまうと過剰診断しかねない危険性もあるため、実際には症状だけでなく、病気の本質的な部分もみながら診断を行っていきます。
では、DSM-Vではどのようにしてパニック障害を診断するのでしょうか。
パニック障害と診断されるには、以下のA~Dを満たす必要があります。
パニック発作とは、「突然激しい恐怖又は強烈な不快感の高まりが数分以内でピークに達し、その時間内に以下のうち4つ以上が起こる」ことと定義されています。3つ以下の場合は症状限定発作と呼ばれます。
パニック障害と診断するためには、パニック発作が認められる必要があります。
パニック発作の本質的な特徴は、数分以内にピークに達するような強烈な恐怖感です。パニック発作では「繰り返される」必要があるため、1回だけしか発作が認められない場合はパニック障害にはなりません。
そしてパニック発作のポイントとしては、予期しないということです。「予期しない」とは、特にきっかけがなくパニック発作が生じることです。例えば、深い睡眠にあるときに突然にパニック発作で目が覚めるような「睡眠時パニック発作」が典型です。
しかしながら多くの患者さんでは、「予期される」パニック発作も認められます。この2つが混在していても、パニック障害と診断されます。
パニック障害の診断でのもう一つのポイントが、予期不安と回避行動です。多くの場合これらは併発します。予期不安があれば逃げ出したくなりますし、逃げ出したいということは不安がつきまとっているからですよね。後ほど詳しく述べますが、予期不安があるかどうかはパニック障害かどうか診断する大きなポイントです。
回避行動は、パニック発作をできるだけ避けようとする行動のことです。その程度は様々で、何か起こった時に備えて過剰に対策をとったりするレベルから、外出や電車やバスを利用しないといったレベルまであります。「逃げ場がない」状況を避けることがあれば、広場恐怖症を合併していると考えます。
アルコールや薬物による影響でないことを示す必要があります。また、パニック障害の発症が少なくなる45歳以降にパニック発作が認められた場合やパニック発作のときに意識消失したり、ろれつが回らなかったりといった症状があれば身体疾患や物質の影響を考えなくてはなりません。
発生している症状が他の精神疾患でないことも示す必要があります。パニック発作自体は多くの病気で認められますが、「予期しない繰り返す発作」の診断基準を満たさなければパニック障害ではありません。この点については、後述します。

広場恐怖症と診断されるには、以下のA~Iを満たす必要があります。
広場恐怖の本質的な症状は、苦手な状況にさらされることがキッカケとなって生じる激しい恐怖や不安です。例えば高所恐怖症であれば飛行機が苦手、というように、苦手な状況が2つ以上存在する必要があります。ひとつの状況だけでは、それだけが苦手ということもあります。
異なるシチュエーションを苦手にすることには、パニック障害の本質的な恐怖に関係しています。広場恐怖症では、「逃げ出せないこと」「自分がコントロールできないこと」に対して恐怖が想起されます。
先ほどお伝えしたように、広場恐怖症ではコントロールができないことに対する恐怖があります。このため、「ここから出ることができない」「誰も私を助けてくれない」といった状況になると恐怖や不安が高まります。そしてできるだけ避けようとします。
広場恐怖症と診断されるためには、同じような状況になるといつも恐怖や不安が高まる必要があります。
広場恐怖の状況をできるだけ避けようとします。日課を変えたり、バスや電車を避けたりといった行動的なものだけにとどまらず、苦手な状況をやり過ごすために気をそらすといった認知的(考え方)なものも含まれます。
広場恐怖症による恐怖や不安は、合理的な恐怖と区別する必要があります。例えば、高齢者が助けが得られないような状況で自身の身体を心配するといった「合理的な恐怖」を感じる状況は、「現実的な危険やその社会的背景に釣り合」うといえます。
恐怖や不安が一過性のものではないことが求められます。ただし、恐怖・不安の持続が6か月以内だと診断できないのかというと、そんなことはありません。柔軟に判断し、症状を放置すれば恐怖・不安が明らかに6か月以上続くと考えられる場合は広場恐怖症と考えます。
もしも本人が症状をそこまで気にしておらず、特に自分の生き方を変えることなく過ごせているのならば広場恐怖症として治療する意義はありません。あくまで本人が苦しんでいたり、症状のせいで望んでいることができない時に広場恐怖症と診断されます。
パニック障害同様、アルコールや薬物による影響でないことを示す必要があります。
こちらもパニック障害同様、さまざまな精神疾患でないことも示す必要があります。分離不安症や社交不安障害などでは、不安の本質が何かを考えることで見分けることができます。うつ病では、その意欲低下や興味の減退から回避行動にみえることがあります。
広場恐怖症は、パニック障害とは関係なく診断される病気です。繰り返しになりますが、両方の診断基準を満たせば、合併していると考えます。
パニック障害の診断のポイントは、大きく2つあります。
パニック障害と診断されるためには、予期されないパニック発作が認められる必要があります。予期されるパニック発作だけでは当該するきっかけに対する恐怖症と診断されます。人前などの社交場面だけであれば社交不安障害、逃げられない状況だけであれば広場恐怖症、強迫観念に対してであれば強迫性障害、心的外傷(トラウマ)に反応したのならPTSD、親から離れることなどであれば分離不安症になります。
もうひとつ重要なのが予期不安があるかどうかです。予期不安には次の3種が存在します。
パニック発作が繰り返し起きると、予期不安にとらわれるのは自然なことです。しかしながら何らかの原因があってパニック発作が起きている場合は予期不安が存在しないこともあるのです。例えばアルコールなどの物質関連・喘息や不整脈などの身体疾患・甲状腺疾患などの内分泌疾患などです。この予期不安は、慢性的な不安につつまれている全般性不安障害とも異なります。
全般性不安障害の方の不安は、日常の生活の些細なことに過剰に心配してしまいます。パニック障害と同様に発作的に不安に襲われることもありますが、パニック発作ほどには発展しない場合が大半です。一方で、全般性不安障害からパニック障害を合併することや、パニック障害から不安が広がっていき、全般性不安障害も合併することもあります。薬に対しても懐疑的になってしまったり、アルコールなどの薬物に頼ったり、拒食などの極端な行動をする方もいます。
このようにパニック障害と全般性不安障害が合併している時はどちらが先かを考えなければ本質的な部分がみえてきません。
パニック障害とは、強烈な恐怖と不安に繰り返し襲われる病気であり、パニック発作への恐怖から予期不安が生じ、そのせいで生活が回避的になってしまいます。
最新の診断基準では、パニック障害と広場恐怖症は独立した病気と位置付けられました。
パニック発作自体は様々な病気でみられるためパニック障害では予期されないパニック発作がある必要があります。そして予期不安があるかどうかが、パニック障害の診断に重要です。