「年に1回ほどのパニック発作があります。抗うつ薬を飲んだ方がよいのでしょうか?」というご質問をいただくことがあります。このようなケースでは、一概に「はい」や「いいえ」と答えることは難しく、症状の現れ方や生活への影響を総合的に見て判断する必要があります。
今回は、「ごく限られた場面でのみ起きるパニック発作」に注目し、抗うつ薬の必要性や、その他の対応策について丁寧にご説明していきます。
パニック障害とは?そして治療の基本
まず、パニック障害とはどのような状態を指すのかを整理しておきましょう。
パニック障害は、突然強い不安や恐怖に襲われる「パニック発作」を繰り返す疾患です。動悸、息苦しさ、めまい、発汗、死への恐怖などが伴うこともあり、本人にとっては非常につらい経験です。そして、次にまた発作が起こるのではないかという「予期不安」が強くなり、外出や移動が困難になることもあります。
このような状態になると、日常生活に大きな支障をきたすため、治療としては「抗うつ薬(主にSSRI)」と「認知行動療法(脱感作法)」が基本となります。
限られた場面だけの発作に抗うつ薬は必要?
では、発作が「年に1回程度」しか起きないような、非常に限定された場面でのみ発症する場合はどうでしょうか。
抗うつ薬であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、不安を和らげ、発作の頻度を減らすために使われますが、効果を得るためには継続して服薬する必要があります。これは「脳内のセロトニン濃度を安定させることで不安を減らす」仕組みであるため、継続が前提になるのです。
しかし、発作の頻度がごくまれで、年に1回程度であれば、抗うつ薬の継続的な服薬によるメリットと、薬による副作用や服薬の負担感とのバランスを考える必要があります。頻度が少ない場合、薬の効果を実感しにくいということもあるため、「必ずしも抗うつ薬が必要とは限らない」という結論に至ることもあるのです。
発作の場面が限られている場合の具体例
実際に、以下のようなケースでは、抗うつ薬が必須とは言えないことが多くあります。
これらはすべて、「日常生活に広く影響しているわけではない」発作の典型例です。このような場合には、他の対応策で十分に対処できることがあります。
抗うつ薬以外の選択肢
発作が限定的である場合、以下のような代替手段が考えられます。
1. 頓服薬の利用
不安が強まることが予想される場面(たとえば飛行機搭乗や試験直前)で、一時的に薬を服用する方法です。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬などが代表的で、「いざとなったら飲めばよい」という安心感も大きな支えになります。
2. 漢方薬の活用

抗うつ薬ほどの強い効果はありませんが、軽い不安や緊張を和らげる目的で漢方薬を使うこともあります。発作の頻度が非常に少ない方や、西洋薬に抵抗感がある方にとっては、選択肢となりうる方法です。
3. 限定的な回避
一般的には「不安な場面を避けること(回避)」は悪化や慢性化のリスクを高めるため、推奨されません。しかし、もし発作が年に1度程度で、かつその場面が生活全体に大きく関わっていないのであれば、あえて回避を選択することも現実的な対応策になります。
抗うつ薬を検討すべきケースとは?
一方で、以下のような場合には、抗うつ薬の使用を前向きに検討した方が良いと考えられます。
・発作の頻度が増えてきたとき
「以前は年1回だったのに、最近は月に1回くらい起きるようになった」といった変化がある場合、早めに治療を始めることで予期不安や悪化を防げる可能性があります。
・生活の制限が出ているとき
発作を恐れるあまり外出を控えたり、仕事や学校に支障が出ているような場合は、抗うつ薬によって安心感を得ることができ、生活の幅を広げる一助となることがあります。
・予期不安が強く、普段から不安が続いているとき
発作そのものは少なくても、「また発作が起きるかもしれない」という不安に悩まされている場合には、抗うつ薬で不安の基盤を和らげることで生活の質が改善することがあります。
まとめ:薬の必要性は「生活への影響」と「本人の感じ方」で決まる

今回のテーマである「年に1回のパニック発作に抗うつ薬は必要か?」という問いに対して、絶対的な答えはありません。しかし、発作の頻度や場面、生活への影響を丁寧に見つめ直すことで、適切な対応が見えてきます。
抗うつ薬は強力な治療手段である一方、副作用や服薬継続の負担もあるため、限定的な発作には必ずしも必要とは限りません。頓服薬、漢方薬、限定的な回避など、より柔軟な選択肢も十分に考慮に値します。
重要なのは「現在の状態が変化していないか」「生活が狭まっていないか」「自分がどう感じているか」です。不安や発作が生活に及ぼす影響が大きくなってきたときには、迷わず医師に相談し、治療方針を一緒に検討していくことをおすすめします。