精神科を受診された方や、日々の生活の中で「もしかして自分は双極性障害かもしれない」と感じる方の中には、「軽めの双極性障害の場合でも、気分安定薬は必要なのだろうか?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。
本記事では、この疑問に対して専門的な視点から丁寧に解説し、読者の皆さまがより良い選択をするための一助となることを目指します。
まず、双極性障害とは「うつ状態」と「躁状態(あるいは軽躁状態)」という、相反する気分の波を繰り返す病気です。単なる気分の浮き沈みではなく、脳の神経伝達に関わるシステムの不調とされ、いわゆる「うつ病」とは発症のメカニズムが異なります。
この病気は、医学的には以下の2つのタイプに分類されます。
また、これらよりも軽度な症状で長く続く「気分循環性障害」というタイプも存在します。これは、軽躁と抑うつの「一歩手前」のような症状が長期間継続する状態です。
双極性障害の治療には、「気分安定薬」と呼ばれる薬剤が中心となります。代表的なものとして、リチウムやバルプロ酸などが知られており、気分の極端な波を抑え、再発を予防する効果が期待されています。
これらの薬は、症状が落ち着いた後も再発を防ぐために長期間服用を継続する必要があります。しかしながら、副作用や体への負担が比較的大きいため、使用にあたっては慎重な判断が求められます。特に、妊娠を希望する場合にはリスクをよく理解し、医師と相談のうえ適切な選択が必要です。
軽度の双極性障害や、気分循環性障害の場合は、「必ずしも気分安定薬が必要」とは限らない、というのが現場の見解です。ただし以下のような点を踏まえて、総合的に判断する必要があります。

このようなケースでは、症状の重さに関わらず薬の導入を検討すべきとされています。
このような場合は、他の治療法も含めて慎重に考えていく必要があります。
気分安定薬が使いにくい状況では、以下のような治療法も選択肢となります。
いくつかの抗精神病薬には気分の波を穏やかにする作用があり、比較的安全性が高いため、軽度の場合に用いられることがあります。
睡眠・食事・運動といった基本的な生活リズムの整備が、気分の安定にとって大きな鍵になります。特に軽度の症状であれば、薬に頼らず生活習慣の改善でコントロールできる可能性もあります。
認知行動療法(CBT)などの心理療法も有効です。感情の波に気づき、適切に対処する力を身につけることができます。
抑肝散(よくかんさん)などの漢方薬が、軽いイライラや不安に対して補助的に使われることもあります。
精神科の病院では、比較的重度の双極Ⅰ型の患者が多く、気分安定薬の継続使用が基本とされることが多いです。一方で、クリニックではⅡ型や気分循環性障害など軽度の方が多く、治療方針も個別性がより重視されます。
診療の現場では、薬を使うかどうかだけでなく、「症状による日常生活への影響の大きさ」や「これまでの経過・反応性」をもとに、治療方針を慎重に決定しています。

軽度の双極性障害であっても、再発のリスクや生活への影響を考慮すると、気分安定薬の使用が推奨される場面は多くあります。ただし、すべてのケースで必須というわけではなく、効果・副作用・生活状況などを踏まえた総合的な判断が必要です。
一度気分安定薬を使用してみて、自分に合っているかを見極める、というのも有効な選択肢でしょう。治療の目標は、薬の有無にかかわらず、「安定した毎日を取り戻すこと」。そのためにも、自分に合った治療法を、医師と二人三脚で見つけていくことが大切です。