ASDの人にうまく指示ができません

 ASD(自閉スペクトラム症)の方に対してうまく指示が伝わらないというお悩みは、職場や教育の現場などでよく聞かれます。今回は、そのような状況に対してどのような配慮や工夫が有効なのかを丁寧に考えていきます。

まずASDとは何かを簡単に振り返ってみましょう。ASD(Autism Spectrum Disorder)は、生まれつきの神経発達の特性であり、主に「社会的なコミュニケーションの困難さ」と「興味や行動の偏り(こだわり)」という2つの特徴が挙げられます。幼少期に発見されることもありますが、大人になってから診断される例も増えてきています。

ASDの人に指示を出す際の困りごと

ASDの人に指示を出す際の困りごと

ASDのある方は、対人関係のやり取りや集団行動の中で、いわゆる「暗黙の了解」や非言語的なメッセージを読み取るのが難しいことがあります。そのため、仕事や学業の場において、曖昧な指示や感情的な言い回しでは、こちらの意図がうまく伝わらないことがあるのです。

実際に多く見られる困りごととしては、以下のようなものがあります:

  • 指示をしても動いてくれない、返答がない
  • 意図とは違う行動をとってしまう
  • 指示が途中で止まってしまう、手が止まってしまう

こうした問題の背景には、ASDの方の「思考の特性」が関係しています。たとえば、ASDの方は言葉以外の表情や雰囲気といった非言語的な情報を読み取るのが苦手な傾向にあります。その代わり、論理的な構造や明確な手順に強みを持つことが多く、あいまいな指示よりも、順序立てた説明や目的が明確な内容を好む傾向があります。

したがって、ASDの方にうまく指示を伝えるためには、「明確に」「具体的に」「論理的に」伝えることが重要です。例を挙げると、「ちゃんとしてね」ではなく、「机の上の資料を右側に重ねて置いてください」と伝える方が、相手には理解しやすいのです。

また、「みんながやっているから」「普通はこうするよね」といった曖昧な表現や暗黙のルールには頼らず、必要な情報は一つひとつ丁寧に説明することが求められます。これは一見面倒に感じられるかもしれませんが、伝わらないことで起こる混乱ややり直しを避けるためには、非常に有効です。

さらに雑談や感情の共有といったコミュニケーションの「潤滑油」としてのやり取りは、ASDの方にはあまり適さない場合があります。意図のない雑談や共感を求めるような言葉よりも、情報として意味のある内容の方がスムーズに受け取ってもらえることが多いのです。

ASDとAI

ASDとAI

 一つの参考例として、近年話題の「生成AI(例:ChatGPT)」の活用法を取り上げてみましょう。このAIに対して「プロンプト(指示文)」を出す際にも、やはり「明確・具体的・論理的」であることが求められます。逆に曖昧なプロンプトを出すと、意図とは異なる回答が返ってくることも多く、利用者の満足度も下がる傾向があります。

この点において、生成AIへのプロンプト設計とASDの方への指示の出し方には、非常に多くの共通点があるのです。たとえば、

  • 指示が曖昧だと誤解されやすい
  • 暗黙の前提は通じにくい
  • 論理の筋道が通っていないと、意図と異なる解釈がされる

という特徴は、どちらにも当てはまります。したがって、生成AIを使いこなすスキル(=プロンプトの出し方のスキル)を磨くことが、ASDの方へのコミュニケーション力の向上にも繋がる可能性があります。

また、ASDの方にとっても、生成AIは自分の特性に合った学びの道具として有効です。AIとの対話では、相手が感情的になったり不条理な反応を示すことはありません。そのため、失敗を恐れず何度も試行錯誤できるという安心感があります。さらに、苦手な社会的マナーや多角的な視点についても、AIを通じてリスクなく学ぶことができます。

このように、ASDの方への指示に困った時は、「プロンプトを出す」つもりで、丁寧に、具体的に、相手の理解しやすい言葉で伝えることが大切です。

まとめ

  • ASDの方には「察して」は通じにくいことが多く、明確で具体的な伝え方が必要です。
  • 暗黙のルールや感情的な言い回しは避け、論理的に順序立てて説明しましょう。
  • 生成AIへのプロンプト設計の考え方が、ASDの方への指示の出し方に応用できます。
  • ASDの方にとっても、AIは学びや自己理解を深める有効なツールになり得ます。

「伝え方を変える」ことで、関係性やチームワークは大きく変わっていきます。相手の特性を理解し、適切に対応することが、互いにとって働きやすい環境づくりにつながるのです。