発達障害を持つ方にとって、周囲の環境との相性は非常に大きな意味を持ちます。環境がその人の特性と合わない場合、働きづらさや不適応感、さらにはうつ病や不安障害といった「二次障害」を引き起こすこともあります。しかし一方で、その特性に合った環境が整っていれば、本来の強みが発揮され、大きな力となることも少なくありません。
本記事では、発達障害の特性を活かすために大切な組織環境について、具体的に3つのポイントに絞ってご紹介します。その前提として、まずは「発達障害とユニバーサルデザイン」という観点から、環境が与える影響について確認していきます。

発達障害とは、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)に代表される、生まれつきの脳の働き方の違いによる障害です。幼少期に発覚することもありますが、大人になってから診断を受ける方も少なくありません。
ASDの特性には、社会的なやりとりの困難さや、強いこだわりが見られることがあります。たとえば「場の空気が読めない」と指摘されることがある一方で、細部にわたる観察力や一貫した思考力を持つ人も多くいます。ADHDの特徴としては、不注意、多動、衝動性などが挙げられ、ミスをしやすかったり、感情のコントロールに苦しむこともありますが、一方でアイデアの豊富さや行動力を発揮することもあります。
こうした特性を持つ人たちにとって、「わかりやすさ」や「安心できる構造」を提供する環境はとても重要です。ここで注目されるのが「ユニバーサルデザイン」という考え方です。
ユニバーサルデザインとは、年齢や性別、障害の有無にかかわらず、できるだけ多くの人にとって使いやすいデザインのことを指します。もともとは障害者支援の文脈で語られることが多かった概念ですが、近年では建築、教育、まちづくり、そして職場環境にまで広がりを見せています。
たとえば、「誰でも直感的に使えるような案内板」や「図やアイコンを多用した説明」、「どちらの利き手でも使えるハサミ」などは、ユニバーサルデザインの代表例です。こうした配慮は、発達障害のある人だけでなく、すべての人にとっての利便性を高めることができます。
発達障害の支援では、以前から「TEACCHプログラム」などを通して、視覚的に情報を提示する方法が活用されてきました。これは、ASDの人が視覚情報を理解しやすいという特性に基づいています。以下のような工夫が、発達障害のある人々にとって有効であるとされています。
このように、「特性に合わせた環境づくり」が、生活のしやすさや仕事のしやすさに大きく影響します。では、職場環境においては、どのような点に配慮すれば発達障害のある人が力を発揮できるのでしょうか。次章では、発達障害の強みを活かすための組織環境について、具体的な3つのポイントを紹介します。

発達障害の特性として、「あいまいな指示が苦手」「先が見えないと不安になる」といった傾向が見られます。たとえば、「何のためにこの作業をするのか」「どのようなゴールを目指しているのか」がわからないと、不安が増し、集中力が低下したり、パフォーマンスが下がることがあります。
このような場合、「なぜこの仕事をするのか」「何を求められているのか」を明確に伝えることが重要です。たとえば、組織のミッションやビジョンを具体的な言葉で示すことで、本人が納得感を持って業務に取り組むことができます。また、個々の仕事についても「この業務の目的は○○です」「成果は△△で判断されます」といった情報を丁寧に伝えることで、安心して行動できるようになります。
方向性が明確になることで、自分の役割や求められていることが理解でき、モチベーションも保ちやすくなります。
ASDの方にとっては「意味のない雑談」が苦手であることが多く、ADHDの方にとっては「時間や細かいルールを守ること」が困難な場合があります。こうした場面で、無理に適応を求められると、強いストレスを感じてしまい、結果的に不適応や二次障害につながるリスクもあります。
そのため、職場では「無理に合わせなくてもいい」という文化づくりが大切です。たとえば、昼休みを一人で過ごすことが許される、雑談への参加を強制しない、ルールもある程度柔軟に運用するなど、その人のペースややり方に寄り添った運用が望まれます。
ただし、柔軟性を持たせる一方で、「目指す成果」や「チームとしての方向性」については明確に定め、それを共有することが大切です。「何をすれば評価されるのか」がクリアになっていれば、自分なりのやり方で貢献することが可能になります。
発達障害を持つ人は、言葉を文字通りに受け取りやすかったり、雰囲気に敏感であったりするため、悪口や陰口に深く傷つくことがあります。また、ASDの方は「モデリング(他人の行動を模倣する)」という傾向があり、悪い雰囲気を模倣してしまうことで、職場全体の空気が悪化する恐れもあります。
こうしたリスクを防ぐためには、「リスペクトを第一に」という姿勢が何よりも大切です。相手を否定せず、思いやりを持って接する。困っている人を責めるのではなく、工夫して共に進む姿勢が求められます。
心理的に安全な環境があるからこそ、失敗を恐れず挑戦でき、長所を活かすことができるのです。そして、良い行動が良い行動を引き寄せ、職場全体にポジティブな循環を生み出すことも期待できます。
発達障害は「できないこと」に注目されがちですが、実際には多くの「できること」や「強み」も持っています。問題なのは本人ではなく、環境とのミスマッチであることも少なくありません。
今回ご紹介したように、「明確な目標とビジョン」「雑談やルールの強要をしない柔軟性」「他者を尊重し心理的安全性を大切にする文化」が整っていれば、発達障害を持つ人もその強みを十分に発揮し、組織に大きく貢献することができます。
組織づくりにも、まちづくりと同様に、ユニバーサルデザインの考え方が求められる時代です。多様な人々が安心して働ける環境づくりを、私たち一人ひとりが意識することが、誰にとっても優しい社会への第一歩となるのではないでしょうか。