精神疾患を抱えながら仕事を探すとき、「自分の病気を企業に伝えるべきかどうか」という問題は、多くの方が直面する大きな悩みの一つです。自身の状態をオープンにすることには勇気が要りますし、それによるメリット・デメリットの両面が存在するため、一概に「こうすべきだ」と言い切ることは難しい問題でもあります。
本記事では、この「伝えるか、伝えないか」という選択に向き合うために、両方の視点からの利点とリスク、さらには現実的な支援制度についても丁寧にご紹介します。

まず、「精神疾患があることをあえて伝える」という選択をした場合、いくつかの重要なメリットが考えられます。
1. 隠し事のない働き方ができる
自分の病状を理解してもらった上で働けることで、心理的なストレスが大幅に軽減されます。「本当のことを話していない」という葛藤や不安がなくなることは、日々の仕事における精神的安定に大きく寄与します。
2. 企業側との相性を確認できる
もし精神疾患について話したときに、その企業が偏見や不理解を示した場合は、その時点で相性が良くないことがわかります。逆に、疾患を理解し、適切に配慮してくれる企業であれば、長期的に安心して働きやすい環境であるといえるでしょう。
3. 配慮が受けられる可能性がある
法律上、企業には「合理的配慮」の提供が求められる場合があります。すべての企業が完璧に対応できるわけではありませんが、自分の状態を伝えることで、業務内容や勤務時間などに柔軟な調整を受けられる可能性が広がります。

一方で、病気のことを正直に伝えることには、それなりのリスクも伴います。
1. 採用されにくくなる可能性
残念ながら、いまだに精神疾患に対する偏見が残っている場面もあります。そのため、伝えたことで不採用になる、あるいは書類選考の段階で落とされてしまう可能性があることも否定できません。
2. 面接で不適切な質問や対応を受けるリスク
面接の中で、病気について過度に詮索されたり、不快な発言を受けるといった体験をすることもあります。これは精神的に大きなダメージとなり、その後の就職活動にも影響を与える恐れがあります。
3. プライバシーや職場内での扱いの懸念
伝えた情報が正しく扱われず、無用な詮索や差別につながるリスクも少なからずあります。特に小規模な職場などでは、プライバシーの確保が難しい場面もあるため注意が必要です。

では逆に、「病気のことをあえて伝えない」という選択肢には、どのような意味があるのでしょうか。
1. 採用される確率が高まる
精神疾患について伝えないことで、採用のハードルが下がる可能性は高くなります。企業側も応募者の情報に過度に敏感になることなく、スキルや経歴で純粋に評価されやすくなります。
2. 偏見を回避できる
「病気がある」と伝えることで、先入観を持たれてしまう心配がなくなるため、自分の印象をフラットに受け止めてもらえる点は大きなメリットです。
3. 過剰な配慮を避けられる
病気の存在を伝えた場合、時に過剰な配慮がなされることもあります。本人が「もっとできることがある」と思っていても、制限された業務しか任されないという状況は、仕事へのモチベーションを下げてしまうことにもつながりかねません。

ただし、「伝えない」という選択肢にも、いくつかの懸念があります。
1. 精神状態の悪化
自分の状態に配慮されない環境で働くことは、症状の悪化を招くリスクがあります。また、「病気を隠している」という心理的なストレスが、体調に悪影響を及ぼすこともあります。
2. 後で発覚した際のトラブル
入社後に病状が発覚した場合、「最初に伝えていなかった」ということで、信頼を損ねたり、業務の調整がうまくいかなくなるといったトラブルが発生する可能性もあります。
3. 長く続けにくくなる可能性
配慮のない職場環境では、働き続けること自体が難しくなる場合があります。せっかく採用されても、短期間で離職してしまうリスクが高くなるのは本末転倒といえるでしょう。
メリットとデメリットを慎重に比較しても、筆者の考えとしては「精神疾患があることは、基本的には伝えるべき」だと考えます。その理由は以下の通りです。
「隠さないと採用されない職場」は、逆にいえば「ありのままの自分では続けにくい職場」である可能性もあります。長く安心して働くためには、「合うかどうか」を見極めることも大切な視点です。
「現実にはなかなか仕事が見つからない」という声もあります。そこで、精神疾患を抱えた方の就労支援制度として、「障害者雇用」や「就労移行支援」といった制度も視野に入れることが重要です。
◎ 障害者雇用枠
精神疾患などの障害を持つ方が、合理的配慮を受けながら働ける制度です。企業側には一定の雇用義務が課せられているため、求人枠として設けられていることがあります。
職場によっては「ジョブコーチ」などの専門職がつき、職場での人間関係や仕事の流れをサポートしてくれる場合もあります。
◎ 就労移行支援
一般就労を目指す方を対象に、最大2年間、リハビリ的な訓練を受けながら社会復帰を目指す支援制度です。作業の練習やビジネスマナーの習得に加えて、職場実習を通じて自分に合った職場を見つけることも可能です。
さらに「就労定着支援」によって、就職後も定期的なサポートを受けられるのも大きな安心材料です。
「就職すること」だけが目的ではなく、「安心して続けていけること」こそが、仕事探しの本当のゴールかもしれません。