精神科の治療というと、多くの方がまず思い浮かべるのは「通院治療」ではないでしょうか。実際、うつ病や不安障害、統合失調症などの精神疾患の多くは、外来診察によって治療が進められます。精神科のクリニックや病院で、医師の診察を受けながら薬物療法やカウンセリングなどを通じて、段階的に回復を目指していくのが一般的な流れです。
しかし、場合によっては「入院」が必要になることもあります。入院というと構えてしまうかもしれませんが、それは決して「重症だから」というだけではなく、適切な治療環境を確保するための有効な手段です。
本記事では、精神科での入院が必要となる主な場面を3つに分けて詳しくご紹介します。「どんなときに入院を勧められるのか」「外来治療ではダメなのか」といった疑問を持っている方の参考になれば幸いです。
まず前提として、精神科治療には「外来治療」と「入院治療」の2つの枠組みがあります。ほとんどの患者さんはまず外来治療から始まり、週に1回や月に1回といった頻度で医療機関を訪れ、症状の変化を医師と確認しながら薬を調整していきます。
一方で、入院治療とは医療機関に一定期間滞在し、24時間体制で治療やサポートを受けるものです。医師や看護師、精神保健福祉士、作業療法士など多職種が関わり、治療だけでなく生活リズムの安定や再発防止の訓練まで含めた、包括的なケアが提供されます。
入院が必要かどうかは、「患者さん自身の状態」と「外来治療の限界」を見ながら総合的に判断されます。

最もわかりやすい入院の必要性として、「本人の安全を守るため」というケースがあります。
たとえば、うつ病が重度になると、自己否定感が強まり、「いなくなってしまいたい」「もう限界だ」といった極端な思考に陥ることがあります。そうした状態では、突発的に自傷行為や自殺企図に至るリスクが高くなります。
また、統合失調症で幻聴や妄想が強い場合、「誰かに監視されている」「攻撃されるかもしれない」といった考えに支配され、パニックや混乱を引き起こすこともあります。こうしたとき、本人は現実との区別がつきにくく、冷静な判断ができないことがあります。
さらに、双極性障害(躁うつ病)の「混合状態」と呼ばれる不安定な時期には、衝動性が強くなることがあります。ハイテンションと落ち込みが混在し、危険な行動に出ることもあります。
こうしたケースでは、まずは安全を確保し、安定した環境で適切な治療を受ける必要があります。本人の意思に関係なく、緊急措置として一時的に入院が行われる場合もあります。

次に挙げられるのが、患者さんの症状によって周囲に危険が及ぶ場合です。
たとえば、統合失調症の幻覚や妄想の影響で、家族や他人に対して「この人は自分を害そうとしている」と思い込み、攻撃的な言動に出てしまうことがあります。いわゆる「被害妄想」によって、実際には無関係な人を敵とみなしてしまうのです。
また、躁状態ではエネルギーが過剰になり、暴言や暴力的な行動、異常な浪費や性的逸脱行動などを引き起こすことがあります。本人には悪気がなくても、周囲の人にとっては深刻なストレスとなる場合も多く、家庭や職場での人間関係に大きな影響を及ぼします。
認知症の方でも、記憶の混乱や「物取られ妄想」が原因で暴力的になることがあり、介護者が手に負えなくなるケースも少なくありません。
このように、本人の症状が周囲に危険をもたらす場合には、トラブルや事故を未然に防ぐためにも、入院による管理と治療が必要になります。

精神疾患は心の問題に思われがちですが、実際には身体的な健康にも深く関わっています。とくに「食事」や「睡眠」の問題は、精神疾患の影響を大きく受けやすい部分です。
たとえば、重度のうつ病では、食欲が極端に落ち、ほとんど食事を摂れなくなってしまうことがあります。摂食障害(拒食症・過食症)の場合も、極端な体重減少や栄養失調により、命の危険に晒されることもあります。
また、統合失調症の急性期では、混乱が激しくなり、飲食すらままならない状態になることがあります。脱水や低血糖など、緊急の身体的対応が必要となるケースも珍しくありません。
このように、精神疾患が直接的に身体の健康を脅かす状況では、精神科病院に入院して、医療的な管理と治療を受けることが求められます。
精神科の入院というと、どうしても「隔離される」「重症だ」「怖い」というイメージがつきまといます。しかし実際には、安全な環境の中で安心して治療を受けるための有効な選択肢の一つです。
最近では、プライバシーの確保された個室や、リラックスできる病棟環境を備えた病院も増えており、「治療に専念できる場」として入院を前向きにとらえる人も多くなっています。
もちろん、入院には費用や生活上の調整が必要になりますので、主治医や家族とよく相談して慎重に判断することが大切です。
精神科治療は原則として外来で行われますが、以下のような場面では入院が必要となります。
① 自分自身に危険がある場合
② 周囲に危険が生じる場合
③ 健康に深刻な影響が出る場合
これらのケースでは、外来治療だけでは対応が難しく、入院による集中的なケアが回復への近道になります。
「入院=汚点」ではなく、「安心して治療を続けるための手段」と考えることで、患者さん本人もご家族も、より前向きに治療に取り組めるのではないでしょうか。