不安障害なのに抗うつ薬が出ました

病院で「不安が強いですね。では、抗うつ薬を出しておきますね」と言われて、少し驚いたり、違和感を抱いたことはありませんか?
「うつじゃなくて不安なのに、どうして抗うつ薬なの?」
こうした疑問を持つ方は少なくありません。

今回は、不安障害に抗うつ薬が処方される理由やその効果、薬の選択の背景について、丁寧に解説していきます。

不安障害とは?──心が緊張し続ける病気

不安障害とは?──心が緊張し続ける病気

不安障害とは、日常生活に支障が出るほどの強い不安や緊張状態が長く続く精神疾患の総称です。
人は誰でも不安を感じることがありますが、不安障害ではその「不安」が過剰で、脳や身体の反応が過敏になっている状態といえます。

代表的な不安障害には次のようなものがあります。

社会不安障害(SAD)

人前での発言や食事、視線を浴びることなどに対して、強い緊張や不安を感じてしまう状態です。
いわゆる「対人恐怖症」と呼ばれることもあります。

パニック障害

突然、激しい動悸や息苦しさ、めまい、死の恐怖などに襲われる「パニック発作」が繰り返される疾患です。発作が再び起きることを恐れる「予期不安」も大きな苦痛となります。

全般性不安障害(GAD)

特定の対象に限らず、日常のあらゆることに対して過剰な不安が続く状態です。
家族や健康、仕事、将来など、考えすぎて眠れなくなるなどの症状が見られます。

強迫性障害(OCD)

自分の意思に反して、繰り返し浮かぶ考え(強迫観念)と、それを打ち消すための行動(強迫行為)にとらわれる状態です。
手を何度も洗う、鍵を何度も確認するなどが典型的です。

なぜ抗うつ薬が処方されるのか?

一見、「不安」と「うつ」はまったく別のものに思えるかもしれません。
しかし、医学的にはこの2つには深いつながりがあるのです。

抗うつ薬SSRIとは?

SSRIとは「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)」の略称で、脳内のセロトニンという神経伝達物質の働きを改善する薬です。

  • セロトニンは、心の安定や安心感をもたらす役割を担っています。
  • うつ病ではセロトニンが不足しているとされ、SSRIによってその量を増やすことで症状を改善します。
  • 実は、不安障害でも同じくセロトニンが不足していることが多く、SSRIが効果を発揮するのです。

SSRIの特徴と作用

  • 効果発現に時間がかかる:服用開始から2~4週間程度で効果が現れ始めます。すぐに効く薬ではありません。
  • 依存性がない:長期間の使用でも依存が起こりにくく、継続的な治療に向いています。
  • 副作用が比較的少ない:古いタイプの抗うつ薬(例:三環系抗うつ薬)に比べ、副作用の出現率が抑えられています。

セロトニンと心の不調──うつ病と不安障害の共通点

うつ病と不安障害は、一見すると症状も異なり、別の病気のように思えます。
しかし、実は「脳内のセロトニンの働きが弱くなっている」という共通点があります。

  • 不安障害が続いた結果、うつ病になることがあります(不安からのうつ)。
  • 逆に、うつ病の中で不安症状が強くなることもあります(うつの中の不安)。
  • このように、両者はしばしば重なり合い、薬の治療法も似通ってくるのです。

そのため、うつ病にも不安障害にも共通して、SSRIなどの抗うつ薬が用いられます。

抗不安薬との違い──すぐ効くけど長くは使えない

抗不安薬との違い──すぐ効くけど長くは使えない

不安障害の治療では、「抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)」が使われることもあります。
こちらは、服用してすぐに効くため、症状の強い初期や緊急時に重宝されます。

抗不安薬の特徴

  • 即効性があり、数十分〜1時間で効果を感じられる。
  • 筋肉の緊張を和らげ、眠気をもたらすため、身体のリラックスにもつながる。
  • 副作用が比較的少なく、短期間の使用では非常に有効。

しかし注意点も…

  • 依存性や耐性のリスク:長期にわたって使用すると、薬に対する「慣れ」が起きて効きにくくなり、服用をやめると離脱症状が出ることもあります。
  • あくまで対症療法:一時的な不安を抑えるだけで、根本的な治療にはなりません。

そのため、現在では不安障害の「長期治療」においては、依存のリスクが少なく根本改善を期待できる抗うつ薬(SSRI)が優先される傾向にあります。

SSRIが選ばれる理由──不安障害における3つの強み

SSRIが不安障害の治療において有効であるとされる理由は以下の通りです。

1. 長期的な効果が期待できる

SSRIはセロトニンのバランスを調整し、時間をかけて「不安を感じにくい脳の状態」に整えていきます。これにより、単なる対症療法ではなく、根本からの改善が目指せます。

2. 依存や耐性のリスクが低い

抗不安薬に比べ、依存性がなく、長期使用にも向いています。
離脱症状も抗不安薬ほど強くはないため、安心して治療を継続しやすいのが特徴です。

3. 脱感作療法(認知行動療法)との併用に適している

SSRIは、心の不安をある程度軽減してくれるため、「脱感作療法」や「暴露療法」といった心理療法と組み合わせることで、さらに高い効果を発揮することがわかっています。

まとめ:不安障害と抗うつ薬の関係を知ることの大切さ

不安障害に抗うつ薬が使われるのは、一見すると意外に思えるかもしれません。
しかし、うつ病と不安障害の間には共通する神経伝達物質のバランスの崩れがあり、それを改善するためにSSRIが有効とされています。

  • SSRIは「セロトニン」を調整することで、うつ病だけでなく不安障害の症状も改善します。
  • 抗不安薬は即効性がある一方で、依存や耐性のリスクがあるため、短期的な使用にとどめるのが原則です。
  • 長期的な改善を目指す場合には、SSRIが第一選択となることが多く、認知行動療法などと併用することでより高い治療効果が期待できます。

不安障害の治療では、症状に応じて薬を使い分けることが大切です。
「抗うつ薬が出されたからうつ病なんだ」と決めつけず、医師の説明をよく聞き、自分の状態に合った治療を受けるよう心がけましょう。