自閉症スペクトラム(ASD)を持つ人は、興味や関心が限定され、特定の行動を繰り返す「こだわり行動」や「対人関係が苦手」という特徴があり、社会生活や仕事で困難を抱えることが多いです。現時点で、自閉症スペクトラム(ASD)そのものの治療法はありませんが、特性からくる困りごとを軽減するための対処法は存在します。今回は、自閉症スペクトラム(ASD)の原因と特性に関連する困りごと、具体的な対処法、そして私生活や仕事の悩みを改善する方法について説明します。

自閉症スペクトラム(ASD)は発達障害の一種であり、主に以下の3つの特性が特徴です。
この特性により、自閉症やアスペルガー症候群などを含む広汎性発達障害と呼ばれるグループが、現在は自閉症スペクトラムとして統合されています。アメリカ精神医学会の診断基準「DSM」が2013年に第5版へ改訂され、アスペルガー症候群という分類は消え、自閉症も含めて自閉症スペクトラム(ASD)に統一されました。しかし、この定義はアメリカ精神医学会の基準であり、他国の対応は様々です。例えば、イギリスでは現在もアスペルガー症候群という診断名が使われています。日本の厚労省が採用しているWHO規定の診断基準「ICD-10」でも、アスペルガー症候群という用語が使われています。
自閉症スペクトラム(ASD)は、その特性の強さや現れ方、困りごとの内容が一人ひとり異なります。そのため、最適な対処法も人それぞれ異なります。自身で試す工夫がある一方で、医療機関や専門機関に相談し、サポートを受けながら対処法を見つけることも可能です。自閉症スペクトラム(ASD)の特徴や診断方法、「自閉症スペクトラムかもしれない」と感じた時の相談先などについても、後半で詳しく紹介します。
自閉症スペクトラム(ASD)の原因はまだ特定されていませんが、研究は進められており、先天的な脳機能障害が原因とする説があります。多くの関連遺伝子が発見され、それにより生じる脳機能の偏りが行動や考え方の特性を引き起こすと考えられています。この特性と環境の相互作用が、こだわり行動やコミュニケーションの困りごとを引き起こすことがあります。
自閉症スペクトラム(ASD)の根本的な治療法はありませんが、特性からくる困りごとを軽減するための対処法はあります。重要なのは、自閉症スペクトラム(ASD)の特性に合った「環境調整」です。子どもから大人まで、自閉症スペクトラムを持つ人には環境調整が有効です。特性に合わせた物理的な工夫や周囲の協力で、家や職場、地域社会での困りごとを減らせる環境を整えることが大切です。環境調整のポイントとして、「視覚的にわかりやすくする」「見通しを持ちやすくする」「苦手な刺激を減らす」などがあります。自分一人では環境調整が難しい場合は、身近な人や職場の人たち、または医師や心理士など専門家の助言を求めましょう。 成人期に合併しやすい不安障害などの二次障害には、認知行動療法が効果的です。自分の考え方や行動パターンを理解し、対処法を身に着けることで、生活や仕事のストレスを軽減することができます。コミュニケーションに困りごとを感じる場合、ソーシャルスキルトレーニングを通じて人との関わり方や望ましい振る舞いを学ぶこともできます。ソーシャルスキルトレーニングについては、解説した本が多数出版されているので、参考にしてみると良いでしょう。
自閉症スペクトラムのある人は、コミュニケーションや人間関係が苦手で、それが生活や仕事に影響することがあります。コミュニケーションの困りごとといっても、その内容は人によって異なります。まずは詳しい状況を整理し、そのうえで特性に合わせた環境調整や、認知行動療法、ロールプレイを用いたソーシャルスキルトレーニングで対処法を探します。対人関係での主な困りごとは以下の通りです。
具体的な困りごとが発生したら、無理せずできる範囲で小さな工夫から始めます。対処法の例としては、
といった方法があります。成功体験を積むことで、不安が軽減されます。また、周囲の人に自分の特性や苦手なことを伝えて、理解を求めることが重要です。自閉症スペクトラムの特性は、変わった人やコミュニケーションが難しいと誤解されやすいため、正しい理解を得ることが大切です。「具体的な指示をいただけると理解にズレがなく、仕事がしやすいです」「あやふやだと不安になるので、こまめに確認させてください」「話が長引いていることに気づきにくいので、遠慮なく声をかけてください」などと、周囲に協力を依頼します。 自閉症スペクトラム(ASD)を持つ人は、決まった手順を守るのが得意な一方、変化に弱い特性があります。この特性が困りごとと結びついている場合は、環境を調整したり、考え方や行動の癖を見直して、うまくいく方法を練習することが大切です。変化による強い不安やパニックがある場合は、医師に相談することを検討しましょう。
こだわりの特性からくる困りごとには、次のようなものがあります。
自閉症スペクトラム(ASD)を持つ人は、物事の全体像を客観的に把握してから優先順位を決めることが難しいことが多いです。また、その特性から臨機応変な対応や、相手に合わせたスピードが求められる作業が苦手なこともあります。対処法としては、
といった方法があります。自分で工夫するだけでなく、同僚や上司に自分の特性や得意・不得意を伝え、環境や業務の調整、解決方法の検討などサポートを受けることも重要です。
自閉症スペクトラムの症状の一つとして、感覚過敏や感覚鈍麻があり、日常生活で困りごとを引き起こすことがあります。蛍光灯の光やBGM、環境音、匂いなどが感覚過敏のある人には非常に苦痛に感じることがあります。感覚が非常に過敏な人は、ストレスから頭痛など身体症状が現れることもあるので、刺激を軽減する工夫が必要です。感覚過敏に関連する困りごとは以下の通りです。
このような場合、まずは苦手な刺激を避けたり、減らしたりするための環境調整を行います。感覚の特性は多くの人には理解しづらいものなので、理解と協力を依頼するためにも、きちんと説明することが大切です。対処法としては、
といった方法があります。感覚の特性は理解しにくいものなので、周囲の理解と協力を得るためにしっかり説明しましょう。
自閉症スペクトラムは、特性の組み合わせや強さ、二次障害の有無によって、症状や困りごとの現れ方が異なります。現時点で自閉症スペクトラムの治療方法はありませんが、工夫次第で困りごとを減らすことができます。まずは自分の特性を理解し、強みと弱みを把握すること、そして自分に合った環境を整え、強みを活かして弱みをカバーする対処法を見つけましょう。

大人になってから仕事などで課題に直面し、診断に至る人も少なくありません。一人で解決が難しい場合は、周囲の協力や専門家のサポートを得ることも重要です。受診できる医療機関は以下の通りです。
受診前には、発達障害に対応しているか確認しましょう。また、発達障害者支援センターなどに相談し、医療機関を紹介してもらうことも可能です。診断や薬物治療は医療機関でしか行えませんが、環境調整や対処法は医療機関以外でも取り組めます。自分で解決が難しい困りごとがあるなら、発達障害者支援センターなどの相談機関に相談することをお勧めします。
以上が、自閉症スペクトラム(ASD)の特性による困りごとや対処法、そして私生活や仕事での悩みを改善する方法についての説明でした。