「広場恐怖症(Agoraphobia)」という言葉を聞いたとき
多くの方は「広い場所が怖くなる病気」と想像されるかもしれません。
しかし実際には、広場そのものへの恐怖ではなく
「すぐに逃げ出せない場所や状況」に対する強い不安や恐怖を指します。
この疾患は単なる「怖がり」とは異なり
日常生活に深刻な支障をきたすこともある精神疾患の一つです。
本記事では、広場恐怖症の定義や歴史的背景、発症原因
具体的な症状、診断基準、治療法について丁寧に解説していきます。

広場恐怖症は、不安障害の一種に分類される精神疾患であり
「容易に逃げ出せない」「助けが得られない」と感じる状況や場所に対して
強い恐怖や不安を覚える状態を指します。
たとえば以下のような場面が、広場恐怖症を引き起こす「恐怖の対象」となりやすいです。
こうした場所は共通して、「自由に出入りできない」「他人の目がある」
「すぐに助けを呼べない」などの特徴を持っており
これらが広場恐怖症の人にとって強い不安を引き起こす要因となります。
ちなみに「広場恐怖」という名称は
古代ギリシアの「アゴラ(agora)」と呼ばれる公共広場に由来します。
当時、このような広場で開かれる集会などに参加することに
強い不安を抱える人がいたことから、この名称がつけられたとされています。

広場恐怖症の発症には、さまざまな要因が関わっています。
一つの明確な原因があるとは限らず、複数の要素が複雑に絡み合って発症するケースもあります。
過去の恐怖体験
子どもの頃や過去に「逃げられない状況」で強い不安や恐怖を感じた体験が
トラウマとして残ることがあります。例えば、
などの体験が「特定の状況=危険」という意識を脳に植え付けてしまい
それが広場恐怖症につながることがあります。
心理的ストレスや不安感受性
精神的にストレスが強い時期や
もともと不安を感じやすい性格(心配性、完璧主義、神経質など)の方は
恐怖体験がより深刻な影響を及ぼす傾向があります。
また、脳の扁桃体という部位や、神経伝達物質のセロトニンの働きの違いが
広場恐怖の発症に関わっているとされており
遺伝的要素も少なからず影響している可能性があります。

広場恐怖症では、以下のような症状が認められます。
(1)特定の状況に対する過剰な恐怖
実際にその状況にいなくても
「もし電車の中で具合が悪くなったらどうしよう」など
想像するだけで強い不安を感じてしまうことがあります。
(2)不安発作(パニック発作)
恐怖を感じる状況に直面すると、次のような身体症状が急激に現れることがあります。
これらは自律神経の乱れによるものであり、発作自体に命の危険はありませんが
繰り返すことでますますその状況に対する恐怖が強まり、症状が悪化しやすくなります。
(3)回避行動
恐怖の対象となる場所や状況を避けるようになります。
たとえば、「通勤電車が怖いから仕事を辞める」「歯医者に行けず虫歯を放置する」
といったように、日常生活への影響が大きくなっていきます。

アメリカ精神医学会による診断基準「DSM-5」では
以下の条件をすべて満たす場合、広場恐怖症と診断されます。
この診断は、医師が問診や心理検査を通して慎重に行います。

広場恐怖症は、適切な治療によって改善が可能な疾患です。
主に以下の2つのアプローチが行われます。
(1)薬物療法
(2)認知行動療法(CBT)
「逃げられない状況=危険」という認知の歪みを修正し
不安に対する耐性を高めていく心理療法です。
恐怖の対象となる状況に少しずつ慣れる「暴露療法」なども効果的とされています。

広場恐怖症は、「すぐに逃げ出せない」「助けが得られない」ような状況に対する
過剰な不安や恐怖が特徴の疾患です。
放置すれば日常生活に深刻な影響を及ぼす一方、適切な治療によって改善することが可能です。
「ただの怖がり」ではなく、れっきとした精神疾患であることを理解し
ご自身や身近な人が苦しんでいる場合は
早めに医療機関を受診し、必要な支援を受けることが大切です。