はじめに:発達障害の認知が進んだ今だからこそ
近年、発達障害に対する社会の認知は大きく進みました。インターネットや書籍、テレビ番組などを通して、「発達障害」という言葉を目にする機会は大幅に増えています。それに伴って、「自分も発達障害かもしれない」と考える人が増えてきました。
実際に、これまで見過ごされていた特性に気づき、診断を受けて適切なサポートを得られるようになった方も多くいます。一方で、発達障害ではないけれど、その情報に触れるうちに「もしかして……」と過剰に心配してしまう人がいるのも事実です。
この記事では、「発達障害を疑いにくい特徴」に焦点を当てつつ、「何が発達障害で、何がそうでないか」を見極める際のヒントを丁寧に解説していきます。
発達障害とは、生まれつきの脳機能の特性により、行動や認知、対人関係などに偏りが生じる状態を指します。主に以下の2つのタイプがよく知られています。
● ASD(自閉スペクトラム症)
かつてはアスペルガー症候群や自閉症などと呼ばれていたものが、現在ではASDとして一括されています。ASDの主な特徴は「社会性の障害」と「こだわりの強さ」です。たとえば、空気を読まない発言や、一つの物事に強く固執する傾向が見られることがあります。
● ADHD(注意欠如・多動症)
不注意や多動性、衝動性が主な特徴です。物事を忘れやすかったり、注意が散りやすかったり、突発的な行動に出やすいことなどが挙げられます。大人のADHDでは「ミスが多い」「落ち着きがない」「イライラしやすい」などの困りごとが目立ちます。
発達障害の特性は基本的に生まれつきであり、生涯にわたって持続する傾向があります。ただしその表れ方は、年齢や環境、本人の努力や工夫によって変化することもあります。
認知が進んだことで生まれた「心配しすぎ」の問題
発達障害に関する啓蒙活動が進んだことにより、昔と比べて軽度の人にも光が当たるようになりました。その結果、診断を受ける人の数が増え、支援体制も少しずつ整ってきています。
しかし一方で、「自分も当てはまるかもしれない」と感じる人が増えることにより、本来は発達障害とは異なる要因による悩みを「発達障害では?」と誤って考えてしまうケースも増えています。
とくにインターネット上には、簡単なチェックリストや経験談が数多く流通しており、それを読んで心配になる人も少なくありません。では、どういった特徴が「発達障害とは考えにくい」のでしょうか? 次に紹介する3つの視点が、そのヒントになるかもしれません。
1. ある時期から急に目立ち始めた
発達障害は基本的に「生まれつき」の特性です。そのため、幼少期から何らかの傾向があったと考えられます。もし「高校生になってから」「社会人になってから」など、ある特定の時期から急に特性が目立つようになった場合、それは発達障害ではなく、他の疾患の可能性を考える必要があります。
例:強迫性障害
幼少期には特に目立ったこだわりがなかった人が、高校入学後から細かいことに異常にこだわるようになった場合、それは発達障害ではなく、強迫性障害の発症かもしれません。

例外:受動型ASDなど
ただし例外もあります。たとえば、受動型ASDのように「目立ちにくいタイプ」の発達障害は、幼少期には問題視されなかったものの、環境の変化(進学や就職)により支障が出て、初めて特性が明るみに出ることもあります。この場合も、よくよく振り返ってみると幼少期から何らかの傾向が見られたというケースが多いです。
2. 周囲の人から指摘されない
発達障害の特徴は、本人の自覚よりも周囲の人の指摘で初めて気づかれることが多いものです。ところが、自分で「当てはまるかも」と思っても、周りの人から一度も「変わっているね」「ミスが多いね」と言われたことがない場合、それは「心配しすぎ」の可能性もあります。
例:不安障害
不安が強い人は、自分のミスに対して過剰に敏感になる傾向があります。ちょっとした不注意を「ADHDかもしれない」と思い込むこともありますが、実際には周囲から見ればほとんどミスがないというケースもあります。
例外:演じている・気づかれない環境
とはいえ、「ミスが目立たない職場環境」や「周囲に気づかれないよう振る舞っている場合」は、他人からの指摘が得られにくくなるため、この点だけで判断するのは難しい面もあります。
3. 他の症状と連動している
うつ病や不安障害など、他の精神疾患でも注意力の低下やイライラ、集中困難といった「発達障害的な特徴」が見られることがあります。たとえば、うつ病では「思考の遅さ」「集中力の低下」によってミスが増え、「ADHDかも?」と思ってしまうこともあります。
例:うつ病とADHDの誤認
ここ最近、仕事でミスが目立ち「ADHDでは?」と考えたが、同時に気分の落ち込みや意欲の低下も感じていた──このようなケースでは、ミスの原因は「ADHD」ではなく「うつ病の症状」によるものかもしれません。
例外:発達障害+心身不調
もちろん、発達障害の人もストレスや心身の不調により、普段以上に困りごとが目立つことはあります。これは「普段はなんとかカバーできていた特性が、余力を失ったことで表面化した」と考えるとよいでしょう。

発達障害についての情報が広く知られるようになった今、自分の生きづらさに気づき、対策を始められる人が増えたことは非常に大きな前進です。一方で、「実際は発達障害ではないが、心配しすぎてしまう」というケースも少なくありません。
この記事で紹介した、発達障害を疑いにくい特徴は次の3つです:
ただし、これらには例外もあり、自己判断だけでは見極めが難しいことも多くあります。もし不安が強い、または日常生活に支障が出ているようであれば、一人で抱え込まず、専門の医療機関やカウンセラーに相談してみるのも一つの選択肢です。
「もしかして自分は……」と思ったその気づきこそが、あなたの生きづらさを見つめ直す第一歩かもしれません。