ADHD(注意欠如・多動症)は、「集中が続かない」「落ち着きがない」「衝動的な行動を取ってしまう」といった特徴を持つ神経発達症の一つです。その特性があるがゆえに、本人も周囲も困難を抱える場面が少なくありません。中でも「攻撃的な行動」と見なされる振る舞いが現れたとき、実はADHDそのものではなく、そこから生じる二次障害が背景にあることがあります。
その代表的なものが「素行障害」と呼ばれる状態です。この記事では、ADHDの衝動性に関連して起こりやすい素行障害について、背景、症状、原因、治療や支援の方法までを丁寧に解説していきます。
素行障害とは何か

「素行障害(Conduct Disorder)」とは、他者の権利を侵害するような行動、社会的な規範やルールに反する行為を反復的かつ持続的に行ってしまう状態を指します。この障害は、通常小児期から青年期にかけて発症します。
たとえば、暴力的な行動、器物損壊、万引き、動物への虐待、いじめ、学校をたびたび無断で休む、家庭内での反抗的な態度などが挙げられます。こうした行動が一時的なものではなく、継続的に繰り返される場合に「素行障害」と診断される可能性があります。
ADHDとの関係──衝動性が背景に
ADHDにはもともと「衝動性」という特徴があります。この衝動性が強く現れた場合、感情をうまくコントロールできずに攻撃的な言動につながることがあります。その結果、周囲との関係が悪化し、さらに孤立感や劣等感を募らせるなど、悪循環が起こりやすくなります。
そのような流れの中で、二次障害として「素行障害」が現れることがあるのです。ADHDのすべての人が攻撃的になるわけではありませんが、衝動的で自己抑制が困難な場合に、環境要因が加わると、素行障害のリスクが高まるとされています。
素行障害のステップ──「反抗挑戦性障害」から始まることも
素行障害は突然激しい問題行動が出るわけではなく、いくつかのステップを経て進行することがあります。まず比較的軽度な段階として「反抗挑戦性障害(ODD)」が知られています。
反抗挑戦性障害の特徴は以下の通りです。
この段階では、他者に直接的な危害を加えることは少なく、周囲との衝突や反抗的な態度が中心になります。適切な支援が行われず、問題行動がエスカレートした場合に、素行障害へと進展する可能性があります。
この進行のことを「DBDマーチ(Disruptive Behavior Disorder March)」と呼ぶこともあります。これは、問題行動が段階的に進む様子を示した表現です。
発症の背景にあるもの──生物学的要因と環境要因

素行障害の発症には、複数の要因が関わっています。
生物学的要因
環境要因
とくに安全基地がない幼少期を過ごした子どもは、他人を信頼する力が育ちにくく、攻撃的な行動で自己防衛を行うようになる場合があります。こうした環境的な背景は、ADHDのある子どもにとって、症状をさらに悪化させる要因となります。
大人になった後──反社会性パーソナリティ障害へ?
素行障害が思春期以降も続き、改善されない場合、成人後に「反社会性パーソナリティ障害(ASPD)」と診断されることがあります。これは、他者の権利を無視する行動や良心の呵責の欠如、ルール違反などが日常的に見られる状態です。
ただし、すべての素行障害が将来ASPDになるわけではありません。早期発見と適切な支援があれば、社会的な適応が可能なケースも多くあります。
治療と支援──本人を責めず、環境を整える
素行障害には「特効薬」と呼べる薬は存在しません。しかし、ADHDや併存する精神疾患の治療の一環として、薬物療法が行われることはあります。たとえば、衝動性を抑えるために中枢神経刺激薬や非刺激薬が使用されることがあります。
精神療法・行動療法
支援のポイント
怒りや暴力を振るう子どもには、その裏にある「助けてほしい」「認めてほしい」というメッセージが隠れていることもあります。行動の背景にある感情や過去に目を向けることが、回復の第一歩になります。
まとめ──攻撃的な行動の裏にある苦しみに目を向けて
ADHDのある子どもが攻撃的な行動を示すとき、それは単なる「わがまま」や「乱暴者」といったレッテルで片付けられるものではありません。その背景には、衝動性、環境要因、過去のトラウマ、そして素行障害という診断に至る困難が複雑に絡み合っていることがあります。
重要なのは、本人を責めるのではなく、「どうしたら困りごとを減らせるか」「どんな支援が必要か」を考えることです。理解と支援を通じて、攻撃的な行動の奥にあるSOSに気づき、安心できる関係性を築いていくことが、本人の人生を大きく変えるきっかけになるかもしれません。