発達障害とは、私たちが日常生活の中で目に見える形では捉えにくい障害です。身体的な障害であれば、どのような困難があるのか、またどのような支援が必要かをある程度想像しやすいかもしれません。しかし、発達障害や精神障害は、表面上はわかりにくく、誤解や偏見が生まれやすいという現実があります。
例えば、「難しい漢字は書けるのに、ひらがなが書けない」といった極端な能力差が見られることもあります。これにより「やる気がないからできない」「努力不足だ」といった誤解を受けることも少なくありません。
特にADHD(注意欠如・多動症)では、活発で落ち着きのない「多動・衝動性優勢型」と、非常に穏やかでぼんやりして見える「不注意優勢型」があり、同じ診断名でもまったく異なる特性を持つことがあります。そのため、周囲からは理解されにくく、孤立や苦しさを感じやすいのです。

発達障害における困りごとは、生まれつきの脳機能の特性と、その人を取り巻く環境との「相互作用」によって生じます。ここでいう環境とは、建物や道具などの物理的なもの(ハード面)だけでなく、人間関係や暗黙のルール、コミュニケーションの仕方など、目に見えない社会的・心理的な要素(ソフト面)も含まれます。
この「環境調整」は、本人の特性に合わせて、生活や仕事の場を整えるという支援の基本です。発達障害があっても、特性と環境の相性が良ければ困難を感じずに過ごすことも可能です。反対に、環境と特性が合わなければ、生活や仕事に支障をきたし、抑うつや不安障害といった「二次障害」を引き起こすこともあります。
だからこそ、自分自身の特性を知り、それに合った対処法や生活スタイルを工夫していくことがとても大切なのです。

発達障害のある人は、定型発達の人たちが無意識でこなせることでも、頭や心、体をフル回転させて対応していることが多くあります。周囲からは「ただ普通に過ごしているだけ」に見えても、それだけで大きなエネルギーを消費しているのです。
例えば「感覚過敏」がある場合、私たちがあまり気にしないような音や光、肌触りなどの刺激が強くストレスになります。工事現場の横で集中して勉強できるでしょうか?強い日差しの下でリラックスできるでしょうか?チクチクする服を着たまま心地よく過ごせるでしょうか?――感覚過敏のある人にとっては、これらが日常的なストレスになっているのです。
ある自閉スペクトラム症の成人は「空気は読むのではなく、解読するもの」と話します。常に状況を分析しながら、言葉や行動を選択しているため、その分疲れやすいのです。

ADHDの特性には、不注意、多動性、衝動性があります。以下はよく見られる困りごとの例です。
これらに対する工夫としては以下のような方法があります。
また、困りごとを「本人の意識の低さ」や「だらしなさ」だと決めつけるのではなく、その背景にある特性を理解し、工夫やサポートによって改善していく姿勢が大切です。
読字障害(ディスレクシア)の人は、会話や理解に問題はなくても、文字の読み書きが苦手です。誤字脱字が多かったり、字が乱れて読みにくいこともあり、書くことに対して強い苦手意識を持つことがあります。
その背景には「目の運動能力の弱さ」や「ワーキングメモリーの弱さ」があります。例えば、黒板とノートを交互に見る作業が難しかったり、聞いたことを一時的に記憶して書き出す作業が困難であることもあります。
最近ではLD(学習障害)を「学び方の多様性(Learning Diversity)」と捉えなおす動きもあります。ノートを取らない子どもがいたとき、それを叱るのではなく、「なぜ取れないのか?」を丁寧に探る姿勢が求められます。ICT機器の活用など、その子に合った学習方法を模索することが大切です。
発達障害のある人の中には、「触覚」「聴覚」などの感覚が非常に敏感な人もいます。例えば「水の音が痛い」「水に触るのが嫌」というように、手洗いひとつ取っても苦痛を感じることがあります。しかし、アルコール除菌なら可能だったり、温水や濡れタオルなら大丈夫なこともあるため、本人の許容できる方法を見つけることが重要です。
また、自閉スペクトラム症の人は、あいまいな言葉の理解が苦手です。「きちんとやって」「そのうちやっておいて」などの表現ではなく、「○時までに」「この順番で」など具体的で明確な指示が効果的です。イラストやタイマーの活用も理解を助ける手段となります。
子どもの頃にはさほど目立たなかったADHDの特性が、大人になってから強く現れることがあります。社会人になると、仕事でのミスや人間関係のトラブル、時間の管理など、多くの場面で「自己管理能力」が求められるため、特性による困難が顕著になるのです。
このような困りごとに直面し、「自分はダメなんだ」と自己否定に陥ることもあります。中には、鬱や適応障害などの「二次障害」を発症し、初めて医療機関を受診して、ADHDであることがわかるケースもあります。
ADHDや発達障害における困りごとは、本人の努力不足ではなく、特性と環境の不一致によって起こることが多くあります。発達障害の特性を正しく理解し、対策や環境調整を行うことで、生きづらさを大きく軽減することが可能です。
疲れやすさ、ミスの多さ、コミュニケーションの難しさ――これらの背景には、目に見えないたくさんの努力と負担があります。責めたり否定したりするのではなく、まず「理解しようとする姿勢」を持つこと。それが、発達障害を持つ人が安心して社会で生きていくための第一歩になります。