【発達障害】ASDには伝わらない話し方【アスペルガー症候群】

近年、「発達障害」という言葉を耳にする機会が増えています。中でもASD(自閉スペクトラム症)、かつてはアスペルガー症候群と呼ばれていた状態については、まだ多くの誤解や無理解が存在します。ASDの方とのコミュニケーションに悩んでいる人、あるいは自分がASDで、相手とのやり取りに苦労しているという人も少なくありません。

本記事では、「ASDの方に伝わらない話し方」について丁寧に解説し、より良いコミュニケーションのために何ができるのかを探っていきます。


ASDとは?──「伝わらない」の背景にある特性

ASD(Autism Spectrum Disorder)は、発達障害のひとつで、生まれつき脳の働きに偏りがあることにより、日常生活や社会的なやり取りの中で生きづらさを感じやすい特性です。ASDの特徴としてよく知られているのが、以下のようなものです。

  • 対人関係でトラブルが起きやすい
  • 強いこだわりがある
  • 興味や関心の対象が限定される
  • 感覚の過敏・鈍感がある

とくに「対人関係の難しさ」は、ASDの方が抱える大きな課題のひとつです。これは「空気が読めない」「会話がかみ合わない」といった形で現れることがあり、周囲の人との間にすれ違いが起こりやすくなります。


言葉が「そのまま」伝わる──裏の意味が伝わらない

ASDの方が会話の中で困りやすいのは、「言葉を文字通りに受け取る」という特性が関係しています。一般的な会話では、言葉に込められた意図や、行間のニュアンス、文脈による意味の変化を自然にくみ取ることが求められます。しかし、ASDの方はその「裏の意味」が理解しづらいことがあります。

たとえば、「この部屋、ちょっと暑くない?」という言葉に、「窓を開けてほしい」や「エアコンをつけてほしい」という依頼の意図が含まれていることを、多くの人は察することができます。しかしASDの方は、そのまま「暑いかどうか」という情報だけを受け取り、「そうですね」と答えるに留まることがあります。

つまり、間接的な言い回しや暗黙の了解は、ASDの方には伝わらないことが多いのです。


冗談・皮肉・お世辞はNG?──悪気のない言葉で傷つくことも

ASDの方にとって、冗談や皮肉、お世辞などの曖昧な表現は、非常にわかりにくいものです。

たとえば、「また寝坊したの?やる気ないんじゃない?」という冗談交じりの言葉は、相手によっては軽く受け流せるものですが、ASDの方には本気で非難されているように感じられてしまうこともあります。あるいは、「すごいじゃん!天才かもね!」といったお世辞も、「本当にそう思っているのか」「馬鹿にされているのではないか」と不安になることがあります。

周囲の人に悪意がなくても、言葉の背景やトーン、文脈から意味をくみ取るのが難しいASDの方は、不用意な言葉で傷ついてしまうことがあるのです。


言葉以外の情報が伝わらない──非言語情報の苦手さ

また、ASDの方は、言葉以外の情報(表情・ジェスチャー・声のトーンなど)を読み取るのが苦手な傾向があります。そのため、「言葉には出していないけれど、雰囲気で察してほしい」というやり取りがうまく機能しません。

たとえば、上司が部下に無言で書類を差し出しながら険しい表情を見せたとき、多くの人は「すぐに対応してほしい」というサインだと読み取ります。しかし、ASDの方は「何をしてほしいのか」が分からず、対応が遅れてしまうことがあります。

このように、言葉以外の情報から意図を読み取るのが難しいために、周囲との意思疎通にズレが生まれてしまうのです。


伝え方を工夫するだけで、大きな違いに

では、どうすればASDの方に自分の気持ちや意図を伝えることができるのでしょうか。大切なのは、「少しの配慮」です。

ポイント①:具体的でストレートな表現を使う

たとえば、「今からこの書類を提出してほしい」「この箱を右の棚に置いてね」といった、具体的な指示を用いることで、ASDの方にとって分かりやすく伝えることができます。抽象的な言葉やあいまいな表現は避け、誰が・何を・いつ・どこで・どうしてほしいのかを明確に伝えることが重要です。

ポイント②:指示語を避ける

「それ」「これ」「あれ」などの指示語は、何を指しているのか分かりづらいことがあります。「それを片付けて」と言われても、「どれのこと?」と混乱してしまうことがあるため、「机の上の青いファイルを棚に戻して」など、具体的に言葉にする工夫が必要です。

ポイント③:冗談や皮肉は控える

前述の通り、ASDの方には冗談や皮肉は伝わりづらいため、誤解や傷つきの元になることもあります。できるだけストレートに、誠実な言葉で伝えることを心がけましょう。


ASDの方との関わりは、「伝え方の工夫」から

ASDの特性によって、言葉の裏にある意味や文脈、非言語的な情報を読み取ることが難しく、結果として「話が通じない」「伝わらない」と感じる場面は少なくありません。しかし、その多くは、相手の理解力が低いからではなく、伝え方が合っていないだけなのです。

少しの配慮や工夫で、ASDの方とのコミュニケーションは大きく改善されます。「伝わらない」のではなく、「伝え方を変えることで伝えられる」という視点を持つことが、相互理解の第一歩になるのではないでしょうか。


おわりに

ASDの方と関わる際には、特性を知り、尊重し、相手に伝わりやすい言葉を選ぶことが大切です。「配慮」とは、特別扱いではなく、誰にとっても分かりやすく、安心できる関係を築くための基本的なマナーとも言えるでしょう。

伝わらないからといって、あきらめる必要はありません。ちょっとした工夫が、相手の安心感と信頼につながっていきます。そしてその積み重ねが、お互いにとって心地よいコミュニケーションを築く礎になるはずです。