日常生活の中で「忘れ物が多い」「話がかみ合わない」「作業の手順を忘れてしまう」といった困りごとに悩まされたことはありませんか?特にADHD(注意欠如・多動症)の方にとっては、こうした問題が日常的に起きやすく、それが生きづらさにつながってしまうこともあります。
今回のテーマは、ADHDの方に多いとされる「ワーキングメモリーの弱さ」に焦点を当て、その理解と対処法を分かりやすくご紹介します。この記事を通じて、自分に合った工夫を取り入れることで、少しでも生活がしやすくなるヒントになれば幸いです。

まずはADHDについて簡単におさらいしましょう。ADHDとは「注意欠如・多動症(Attention-Deficit / Hyperactivity Disorder)」の略称で、発達障害のひとつに分類されます。生まれつき脳の働きに偏りがあることにより、主に以下のような特性が見られます。
これらの特徴は、日常生活や人間関係、学業・仕事において困難を感じる要因となることがあります。その背景のひとつとして、「ワーキングメモリー」の弱さが影響している場合があります。

「ワーキングメモリー」とは、短い時間だけ情報を一時的に記憶し、それを同時に処理する能力のことです。作業記憶とも呼ばれます。たとえば、黒板の文字を見てノートに写す、誰かに指示されたことを頭に入れながら行動する、買い物リストを思い出しながら買い物をする、といった場面でこの能力が使われます。
ADHDの方は、このワーキングメモリーの容量が少ない傾向があるといわれており、それがさまざまな生活上の困りごとにつながってしまうのです。

ワーキングメモリーの容量が少ないと、次のような困難を感じやすくなります。
こうした悩みは、ADHDの代表的な症状とも重なっており、日々の生活におけるストレスの原因になっていることも少なくありません。

「記憶力を鍛えるトレーニング」と聞くと、ワーキングメモリーも努力すれば向上すると思われがちですが、実際にはワーキングメモリー自体を大きく向上させるのは難しいとされています。
しかし、悲観する必要はありません。重要なのは「限られたワーキングメモリーの中でどう対処するか」という視点です。つまり、“鍛える”よりも、“補う”、“工夫する”という考え方が大切になります。

ここでは、ADHDの方でも取り入れやすい、実践的な対処法を4つご紹介します。
「覚えないといけない」というプレッシャーは、ワーキングメモリーを過剰に消費してしまいます。そこで有効なのが「メモを取る」習慣です。ToDoリストやチェックリスト、スケジュール表など、視覚的に確認できるものを活用しましょう。
また、あらかじめ予測される出来事や対応方法を細かく書き出して「マニュアル化」するのも有効です。想定外の出来事が起きても、パターン化された対応策があることで不安が減り、記憶力の負担も軽減されます。
ワーキングメモリーは、慣れていない作業に対してより多く消費される傾向があります。そのため、まずは一つの作業を集中して覚え、慣れるまで繰り返しましょう。慣れれば“自動化”され、記憶の負荷がぐっと減ります。
これは仕事や家事、学校の課題など、あらゆる場面に応用可能なテクニックです。
ADHDの方は、聴覚情報より視覚情報の方が得意なケースや、その逆もあります。自分がどちらのタイプかを知り、得意な情報の受け取り方を中心に使いましょう。
たとえば、口頭での指示が苦手な方はメモでの伝達をお願いしたり、自分で音声を録音して後から聞き直すなど、自分にとって分かりやすい形で情報を整理することが大切です。
意外に見落としがちなのが「感情によるワーキングメモリーの消費」です。不安やイライラ、落ち込みといったマイナスの感情は、記憶や集中力を大きく奪います。
だからこそ、ストレスの原因を小まめに解消したり、信頼できる人に相談したりすることで、心を軽く保つことが重要です。感情の整理も、立派な“記憶の工夫”の一つなのです。

「自分のワーキングメモリーが実際にどのくらいあるのか知りたい」という方には、専門的な検査を受けるのがおすすめです。
大人の場合、信頼性が高いのは「WAIS-Ⅳ(ウェイス・フォー)」という心理検査です。この検査では、ワーキングメモリーを含むいくつかの認知機能を数値化して知ることができます。すでにADHDの診断を受けている方であれば、検査結果の中にワーキングメモリーの数値が含まれていることもあります。
診断がまだで、「自分もそうかもしれない」と感じている方も、必要に応じて医療機関や発達障害専門の相談機関に相談してみましょう。
ワーキングメモリーの弱さは、ADHDの方にとって大きな悩みの一つかもしれません。しかし、無理に「覚える力」を高めようとするのではなく、自分に合った工夫や習慣でうまく補っていくことが、より良く生きるための現実的な方法です。
大切なのは、「できないこと」よりも、「できること」「できる工夫」に目を向けること。この記事をきっかけに、自分らしい対処法を見つけてみてください。