近年、「発達障害」という言葉は広く知られるようになり、それに伴ってさまざまな特性や困りごとへの理解も少しずつ進んできました。その中でも特に注目されているのが、「発達障害のある人は運動が苦手なのか?」という点です。本記事では、発達障害と運動能力との関係について、専門的な観点を交えて丁寧に解説します。
この記事は、以下のような方々にぜひ読んでいただきたい内容となっています。
日常生活や学校生活、さらには職場で感じる「生きづらさ」や「違和感」の原因を少しでも解明し、前向きに捉える手がかりとなれば幸いです。
まず、発達障害とは何かについて簡単に説明しましょう。発達障害とは、生まれつき脳の一部の機能に偏りがあることによって、社会生活において困難を感じやすい障害の総称です。
主に以下の3つのタイプに分類されます。
それぞれに特徴が異なり、困りごとも人それぞれです。さらに、これらの特性が重なって現れることもあり、それが日常生活での困難さに繋がることがあります。
発達障害の中でも、特に「極端に不器用」「運動音痴」といった特性が見られることがあります。これには、発達性協調運動障害(DCD: Developmental Coordination Disorder)という診断名が関係していることがあります。
この障害は、身体に麻痺や筋力の低下といった明らかな異常がないにもかかわらず、体をうまく動かせないという特徴があります。非常に簡単に言えば、「極端に不器用」「動きがぎこちない」といった状態です。
この「協調運動」とは、複数の筋肉や関節を連携させて行う運動のことです。協調運動には、大きく分けて以下の2種類があります。
全身を使う運動のことを指します。例えば:
このような運動がうまくできない子どもは、「どんくさい」「運動音痴」と言われがちです。
手や指先を使った、より繊細で細かい動作を指します。例えば:
こういった動作が苦手な場合、「不器用」と表現されやすく、特に日常生活での支障が大きくなりがちです。
粗大運動が苦手であっても、生活に大きな支障が出るとは限りません。たとえば、スキップができなくても日常生活でそれを求められる場面は少ないため、本人の工夫次第である程度カバーできます。
しかし、微細運動の困難さは生活に直結します。たとえば:
こうした問題は、特に学齢期においては学業や友人関係に影響を与える可能性があります。

発達障害のある方は、「体幹が弱い」と言われることがあります。体幹とは、体の中心に位置する、胸・背中・腹・腰といった部分のことを指します。この部分の筋肉がしっかりしていることで、姿勢の保持やバランス感覚、動作の安定性が保たれます。
スポーツ選手にとっても体幹の強化は非常に重要であり、近年では「体幹トレーニング」も一般的になってきました。
発達障害のある子どもは、運動を苦手として避ける傾向があるため、体幹が十分に鍛えられないまま成長してしまうことがあります。その結果として、以下のような二次的な問題が起こる可能性があります。
このように、体幹の弱さは単に運動能力の問題にとどまらず、生活全般や仕事のパフォーマンスにも影響を与えかねません。
発達性協調運動障害は、ADHDやASDなど、他の発達障害と併存することも多く見られます。たとえば、ADHDの「衝動性」や「集中のしにくさ」、ASDの「対人関係の困難さ」といった特徴と重なることで、学校や職場などの集団の中でより強い「生きづらさ」となって現れることもあるのです。
特に子どものころは、運動ができるかどうかが友人関係の構築に影響することが多いため、「運動が苦手で人間関係もうまくいかない」といった二重の困難を抱えてしまうケースもあります。

子どもの場合、運動が苦手であることで自己肯定感が下がったり、学校生活に支障が出たりすることがあります。こうした場合には、「感覚統合療法」や「作業療法」といった支援が効果的です。これらは、粗大運動・微細運動・協調運動の発達をサポートし、日常生活のスキル向上を目指す療育です。
一方、大人になると「運動ができないこと」が人間関係に大きく影響する機会は少なくなっていきます。しかし、体幹の弱さからくる「疲れやすさ」や「集中力の低下」といった問題は、仕事や生活の質に影響を与える可能性があります。
そのため、大人であっても軽い運動やストレッチを日常に取り入れることは非常に有効です。運動と聞くと「苦手」「やりたくない」と感じるかもしれませんが、大人になってからの運動は他人との競争ではなく、自分の健康のために行うものです。
誰かの前で上手にやる必要もありませんし、失敗しても誰かに迷惑をかけることもありません。ウォーキングやヨガ、軽い体幹トレーニングなど、自分に合った形で、無理のないペースで始めてみることをおすすめします。
発達障害と運動能力の関係は、非常に個人差が大きく一概には言い切れない部分もありますが、実際に「運動が苦手」「極端に不器用」という特性を持つ方が多く存在します。そして、それには発達性協調運動障害や体幹の弱さといった背景があることも理解しておく必要があります。
大切なのは、自分やお子さんの特性を正しく理解し、責めることなく、少しずつ向き合っていくことです。必要に応じて専門的なサポートを受けながら、無理のない範囲で生活の質を向上させる取り組みを続けていくことが大切です。
運動が苦手なことは「怠け」ではありません。背景には確かな理由があることを理解し、周囲も本人も優しく寄り添える社会を目指したいものです。