はじめに
発達障害のひとつであるASD(自閉スペクトラム症)には、さまざまな特性があります。その中でも注目されるのが「過集中(かしゅうちゅう)」という現象です。ASDの方は興味のあることに対して非常に強い集中力を発揮する一方で、切り替えが難しく、仕事や日常生活において支障をきたすことがあります。
この記事では、ASDにおける過集中とは何か、そしてその過集中が仕事に与える影響、さらに職場で取り入れられる配慮について、わかりやすく丁寧に解説していきます。
ASDは発達障害のひとつで、生まれつき脳の働きに偏りがあることによって現れる特性です。ASDの方には、以下のような特徴が見られることがあります。
ASDは見た目では分かりづらい“見えにくい障害”のため、本人や周囲の理解不足により、配慮が行き届かないことも少なくありません。
「過集中」とは、特定の物事に対して非常に強い集中を示す状態です。ASDの方に多く見られ、次のような特徴を持ちます。
一見すると「高い集中力」は長所のように思えます。実際に、仕事の中でもこの集中力が強みとなる場面は多くあります。しかし、「やめ時が分からない」「他の業務に切り替えられない」といった点では、支障になることもあるのです。

ASDの過集中が仕事に与える影響には、以下のようなものがあります。
1. 一つの業務にのめり込みすぎる
一つの仕事に深く入り込みすぎて、他のタスクに手が回らないことがあります。たとえば、資料作成やデータ整理など、自分の興味や得意分野に関連した業務で過集中が起きることが多く、気がつけば予定していた時間を大幅に超えてしまうことも。
2. 声をかけられても気づかない
周囲の人が声をかけても、まったく気づかないというケースがあります。これは集中している対象以外の情報をシャットアウトしてしまうためで、同僚とのコミュニケーションや報連相(報告・連絡・相談)に支障をきたすことがあります。
3. 疲労や体調不良に気づかない
長時間過集中の状態が続くと、心身の疲労に気づかないまま作業を続けてしまい、体調を崩すことにもつながります。また、生活リズムが乱れたり、休憩や食事の時間を忘れたりすることで、結果的にパフォーマンスが下がってしまうこともあるのです。
4. スケジュールを忘れてしまう
他の予定や約束が頭から抜けてしまうことがあります。過集中によって「いまやっていること」以外が視界に入らなくなり、重要なミーティングや納期を忘れてしまうといった問題が発生することもあります。
ASDの方が仕事の中で過集中と上手につきあうためには、周囲の理解と、適切な配慮が必要です。ここでは、実際に職場で取り入れることができる配慮事項をご紹介します。
1. 定期的な休憩時間の設定
あらかじめ「◯分作業したら5分休む」といったように、休憩のタイミングを決めておくと、過集中を区切る手助けになります。本人が疲れを自覚しにくい場合でも、一定の時間ごとにリフレッシュできる環境を整えることで、心身の負担を軽減できます。
2. タイマーやアラームの活用
スマートフォンやPCのアラーム機能、キッチンタイマーなどを活用し、「時間の区切り」を目に見える形で設定することが有効です。たとえば「午前中の作業はここまで」「次のミーティングまであと10分」など、音や視覚で時間の経過を伝える工夫が役立ちます。
3. 周囲の理解と協力
過集中が起きているとき、声をかけても反応がないことがあるため、周囲の同僚がその特性を理解し、適切に対応できることが重要です。たとえば「肩を軽く叩いて注意を引く」「タイミングを見て休憩を促す」といった支援が有効です。
また、本人が困っていることを伝えやすい雰囲気を作ることも大切です。「こんなことで迷惑をかけたらどうしよう」と感じて相談をためらってしまうことがないよう、配慮の必要性を全体で共有しておくとよいでしょう。
4. 基準やスケジュールの見える化
仕事の優先順位や、1日の流れを「見える化」しておくことも効果的です。たとえば、ToDoリストやスケジュール表を使い、「いまは何をすべきか」「次に何をするか」を視覚的に確認できるようにすることで、過集中によるスケジュールの乱れを防ぎやすくなります。

ASDの過集中は、「仕事に支障が出る困った特徴」と捉えられがちですが、見方を変えれば「強み」にもなります。高度な集中力が求められる業務では、大きな力を発揮する場面も少なくありません。
しかし、その特性を活かすには、本人の自己理解と周囲の理解・配慮が不可欠です。ASDの過集中について正しく知り、必要な支援を受けながら働ける環境づくりが進むことで、誰もが自分らしく活躍できる職場が実現するでしょう。