知的障害をもつ方々が働く職場において、特有の困りごとやトラブルが生じることがあります。しかし、それらは適切な理解とサポートによって、十分に防いだり軽減したりすることが可能です。本記事では、知的障害についての基礎知識を確認したうえで、職場で起こりやすいトラブルとその対策について、わかりやすくご紹介します。
知的障害とは?
知的障害とは、生まれつきまたは発達期において、知的機能や日常生活能力に制限がある状態のことを指します。診断には以下の3つの条件を満たす必要があります。
これらを満たすと、障害者手帳や療育手帳の取得対象となり、障害者雇用の制度を利用して就職することも可能です。なお、知的障害はIQの数値などを基準に「軽度」「中等度」「重度」「最重度」の4つに分類されます。
職場で起こりやすいトラブル5選
知的障害のある方は、それぞれ異なる特性や得意・不得意を持っていますが、共通して起こりやすいトラブルには以下のようなものがあります。
① 自分から相談することができない
知的障害のある方は、難しい言葉や漢字、抽象的な表現の理解に困難を感じることが多くあります。そのため、「何を相談すればよいのか」「どのように伝えればよいのか」が分からず、困っていても相談できないまま仕事が滞ってしまうことがあります。
さらに、注意や指摘を受けることで「怒られた」と感じ、指摘した人への恐怖心が生まれてしまい、ますます相談しづらくなるという悪循環に陥ることも少なくありません。
対策:
指摘をする際には「責める」のではなく、「一緒に考える」「どうすればうまくいくかを一緒に探す」姿勢が大切です。日頃から安心して話せる環境づくりが求められます。
② ルールやマナーがわからない
知的障害があると、一般的なルールやマナーを理解することが難しい場合があります。たとえば、目上の人に対してため口で話してしまう、会議中に私語をしてしまうなど、その場に合った行動(TPO)をとることが難しいことがあります。
これは、本人に悪気があるわけではなく、社会的なルールの理解や状況判断の力に課題があるためです。
対策:
まずは、本人がそのルールを理解しているかを確認しましょう。頭ごなしに叱るのではなく、「なぜそのルールが必要なのか」「どうすればうまくいくのか」を具体的に説明し、視覚的な資料やマニュアルで補うことも有効です。

③ 仕事の内容が本人に合っていない
知的障害のある方には、得意なことと不得意なことの差が大きいことがあります。こだわりや感覚の過敏さ、集中力の持続時間などにも個人差があります。
そのため、自分に合わない仕事を担当することで、ストレスが溜まったり、仕事の質が下がったりすることがあります。特に就職時に、自分の特性を把握せず職場を選んでしまうと、後にミスマッチが起きやすくなります。
対策:
就職前の段階で、自分の得意・不得意を把握することが大切です。また、職場見学や実習を通じて、自分に合った業務かどうかを体験的に確認することも重要です。
④ 仕事を覚えるのに時間がかかる
知的障害のある方は、理解や記憶のスピードに時間がかかる傾向があります。また、一度に複数の指示を受けると混乱してしまい、指示の内容が頭に入らないこともあります。
対策:
指示はできるだけ一つずつ、簡潔に伝えるようにしましょう。加えて、メモや図解を活用して、視覚的に情報を整理することも有効です。同じことを何度も丁寧に伝える「根気強さ」が求められます。

⑤ スケジュールやタスクの管理が苦手
「いつ」「何をすべきか」といったスケジュールの把握や、自分で優先順位をつけてタスクをこなすことが苦手な傾向があります。その結果、仕事の抜けや忘れが起こることがあります。
対策:
スケジュールやタスクを「見える化」することが大切です。たとえば、ホワイトボードやカレンダーに予定を書き出したり、図や写真を多用したメモを活用したりすることで、本人の理解を助けることができます。

トラブルを防ぐために:周囲のサポートが鍵
知的障害のある方が職場で安定して働くためには、周囲の理解とサポートが欠かせません。具体的な支援策として、次のような方法があります。
● 相談しやすい体制を整える
相談できる担当者を明確に決めておくことで、本人も安心して困りごとを話せるようになります。また、日常的に声をかけることで、相談のハードルを下げることができます。
● マニュアルやチェックリストを用意する
口頭での指示は理解しづらいことが多いため、視覚的に伝えることが有効です。写真やイラストを取り入れたマニュアルを作成し、業務の流れを「見える化」しましょう。
● 職場見学や実習を活用する
就職前に職場見学や実習を行うことで、仕事の内容や雰囲気を体験的に把握することができます。自分に合った職場を見つけるためにも、こうしたステップを大切にしましょう。
● メモや掲示を活用する
スケジュールや作業内容は、本人がいつでも確認できるようにメモに残したり、ホワイトボードに掲示したりするのがおすすめです。見て確認できる環境は、大きな安心材料になります。
おわりに
知的障害のある方にとって、職場は多くの刺激や人間関係が関わる場であり、特性ゆえの困難も少なくありません。しかし、それらは「理解」と「工夫」によって乗り越えることができます。
重要なのは、「できないから仕方ない」とあきらめるのではなく、「どうすればうまくいくか」を一緒に考える姿勢です。本人の可能性を信じ、働きやすい職場環境を整えることが、双方にとってより良い未来を築く第一歩となるでしょう。