近年、発達障害に対する社会の理解が徐々に進むなかで、職場における「合理的配慮」の重要性がより一層注目されるようになってきました。中でもADHD(注意欠如・多動症)を持つ方にとって、働きやすい職場環境を整えるためには、企業側と本人が相互に理解し合い、適切な配慮を取り入れていくことが不可欠です。
本記事では、ADHDの特性をふまえたうえで、職場での就労を円滑に進めるために知っておきたい「配慮事項」を5つに絞って解説いたします。
ADHDは、「注意欠如・多動症」と訳される発達障害の一種で、生まれつき脳の働き方に偏りがあることが原因とされています。主に以下の3つの特性が見られます。
これらの特性が原因で、日常生活や職場での業務において困難を感じる場面が多くなることがあります。しかし、適切なサポートや配慮を受けることで、その能力を十分に発揮できる可能性があります。

配慮事項とは、障害のある方が職場において不利益を被らず、健常者と同じように働けるよう、企業が提供するサポートや環境調整のことを指します。これを法律用語では「合理的配慮」と呼び、2016年に施行された「障害者差別解消法」によって、その提供が義務化されています。
合理的配慮は、障害者雇用の場面で特に重要な要素となりますが、企業ごとに対応の内容や範囲は異なります。また、配慮事項を求める際には、自身の特性と業務との相性を理解し、「本当に必要な配慮」に絞って伝えることが大切です。
たとえば、「マルチタスクが苦手なので仕事ができません」と一方的に伝えるよりも、「マルチタスクが苦手なので、業務の優先順位を都度ご指示いただけると助かります」と伝えるほうが、企業にとっても受け入れやすいのです。内容の伝え方と、求める配慮の「程度」を見極めることが重要です。
ここからは、実際にADHDを持つ方が職場で働く際に役立つ、5つの具体的な配慮事項について紹介します。
ADHDの特性として、同時に複数のことを考えることが苦手な方が多くいらっしゃいます。いわゆる「マルチタスク」に対応することが難しいのです。
このような場合の配慮の伝え方としては、
「業務を一つずつ指示していただけると助かります」
と具体的に要望することが有効です。
自分でもメモを取る、ToDoリストを活用するなどの工夫をした上で、必要なサポートを求めると、企業側も前向きに対応しやすくなります。
ADHDの方には、「想定外の事態」にうまく対応できず、混乱してしまうことがあります。柔軟な対応が求められる部署では苦労することもあるでしょう。
この場合の配慮としては、
「臨機応変な対応が少ない部署に配属していただきたい」
と伝える方法が考えられます。また、トラブル対応のマニュアルや事前シナリオを整備していただくことで、不安を軽減しやすくなります。
急な予定変更については、
「変更がある場合は、できるだけ事前にご連絡をいただきたい」
という形で配慮をお願いするのも効果的です。
ADHDの方は、聴覚情報の処理が苦手な傾向があり、口頭での指示がうまく理解できなかったり、忘れてしまったりすることがあります。
この場合の配慮の伝え方には、以下のような方法があります。
「口頭指示をメモに取るので、内容の確認をさせてください」
「一度で理解できない場合があるので、聞き直すことをご了承いただきたいです」
「可能であれば、指示はメールやチャットなど文字でいただけると助かります」
これらの伝え方は、自分の特性に対する理解を示すと同時に、現実的な解決策を提示しているため、企業側の理解を得やすくなります。
ADHDの特性として、細かな注意力が散漫になり、ミスを繰り返してしまうケースがあります。しかし、まずは自分でミスを減らす工夫をすることが前提です。
そのうえで、以下のような配慮をお願いするのが望ましいです。
「業務ごとのチェックポイントを明確に指導していただきたい」
「業務内容に沿ったチェックリストを一緒に作成していただきたい」
「誰かに頼る」のではなく、「自分も努力するが、サポートを受けたい」という姿勢を持つことが大切です。
ADHDの方には、注意力が散漫になりやすい一方で、特定の作業に没頭しすぎる「過集中」の傾向も見られます。
「静かな環境で業務を行いたい」
「イヤホンの着用を認めていただきたい」
「パーテーションなどで仕切りをつけて作業したい」
「一定時間ごとにアラームを鳴らして、小休憩を取れるようにしたい」
このような具体的な対策を組み合わせることで、集中力のコントロールがしやすくなります。

以上、ADHDの方にとって特に有効とされる5つの配慮事項をご紹介しました。
大切なのは、自分の特性を客観的に理解し、「どのような配慮があれば、自分が仕事をしやすくなるのか」を明確にしておくことです。そして、企業側と誠実に話し合いを重ねることで、よりよい働き方を見つけていくことが可能になります。
もし自分一人では配慮事項を洗い出すのが難しいと感じた場合は、就労移行支援事業所などの専門的な支援サービスを活用するのも一つの手段です。第三者の視点を取り入れることで、自分自身の理解が深まり、より現実的な配慮の形を見つけやすくなります。
ADHDという特性を「個性」として受け入れ、自分に合った環境の中で働くこと。それは決して特別なことではなく、誰にとっても大切な「働きやすさ」への第一歩なのです。