この記事では、ASD(自閉スペクトラム症)と診断された方や、その特性により日常の会話で困難を感じている方、そしてASDのある方と関わる機会のあるご家族やご友人、職場の方々に向けて、ASDの話し方の特徴とその背景、そして理解を深めるためのヒントを丁寧にご紹介します。

ASD(Autism Spectrum Disorder:自閉スペクトラム症)とは、生まれつき脳の働き方に特性があり、主に対人関係やコミュニケーション、興味・行動の偏りといった面に違いが見られる発達障害のひとつです。現在では、かつて「自閉症」「アスペルガー症候群」と呼ばれていたものも含めて、ひとつの連続したスペクトラム(連なり)として理解されています。
ASDの方は、見た目ではわかりにくいものの、日常生活において人間関係や会話の中で戸惑いを感じたり、誤解されたりしやすい特徴を持っています。こうした特性を知ることで、より円滑なコミュニケーションの手助けになることが期待できます。
ASDの方には、一般的な会話のスタイルとは異なる「話し方の特徴」が見られることがあります。ここでは、その代表的な特徴をいくつかご紹介します。
ASDの方は、特定の興味を持つ対象に対して非常に強いこだわりを持っていることが多くあります。そのため、会話の中でも自分の関心がある話題に集中しやすく、相手の話にはあまり興味を示さなかったり、話のキャッチボールがうまくいかないことがあります。
たとえば、自分が好きな電車や昆虫、アニメなどについて長時間話し続けてしまうことがあります。このような一方的な会話スタイルは、ASDの方が相手の気持ちを無視しているわけではなく、「どう伝えるか」「どこで話を区切るか」といったことが分かりにくいという特性から生じるものです。
ASDの方の中には、言葉の使い方や話し方に特徴が見られる方もいます。たとえば、小難しい表現を使うことを好んだり、まるで脚本のセリフのように話したり、棒読みのように感情をあまり込めない話し方になることがあります。
こうした話し方は、本人にとっては自然な表現であるため、意図的に行っているわけではありません。しかし、聞き手からすると「少し変わった話し方」と感じられたり、「感情がこもっていない」と受け取られることがあります。
ASDの方は、曖昧な表現や一般的な省略を苦手とすることがあり、話の細部に強くこだわる傾向があります。たとえば、相手が話した内容の一部に誤りや不明瞭な部分があると、話の本筋とは関係なくてもそこを指摘したり、正確さを追求したりすることがあります。
その結果、相手に「話の腰を折られた」と感じさせてしまったり、時には不快にさせてしまう場合もあります。これも、ASDの方が「正しさ」や「筋の通った説明」に強く価値を置いているために起こるもので、悪意があるわけではありません。
ASDの方の中には、「誰に対しても敬語を使う」「まったく敬語を使わない」といった極端なパターンが見られることがあります。これは、敬語の使い分けという「相手との関係性に応じた表現」を理解するのが難しいためです。
たとえば、友人に対しても終始敬語で話すことで、相手から「距離を感じる」と思われてしまう場合があります。反対に、仕事上の関係であってもタメ口で話してしまい、無礼と受け取られることもあります。本人に悪気があるわけではなく、「マイルール」に従って話しているだけなのです。

ASDの話し方の特徴は、話の内容やスタイルだけでなく、相手との関係や会話の文脈を読み取ることの難しさにも関係しています。
ASDの方は、言葉を文字通りに受け取りやすい傾向があります。そのため、冗談や皮肉、比喩などの「言外の意味」を理解するのが難しく、「冗談のつもりで言ったことに怒ってしまう」といったすれ違いが生じることがあります。
また、「本気で言っていない」と察することができず、傷ついてしまうこともあります。これはASDの方にとって、相手の気持ちや文脈を読み取るのが苦手なためであり、誤解を防ぐには、ストレートで分かりやすい言葉を使うことが大切です。
ASDの方は、相手の気持ちを察するのが難しいため、自分が感じたことをそのまま口にしてしまうことがあります。たとえば、「その服、あまり似合っていないね」といった表現です。
このような率直な物言いは、悪気があっての発言ではなく、事実を伝えることに重点を置いているために起こるものです。しかし、聞き手によっては「傷ついた」「無神経だ」と受け取られてしまうこともあります。
初対面であっても、いきなり「貯金はいくらありますか?」といった質問をしてしまうことがあります。これは、ASDの方が「相手との人間関係の距離感」や「社会的なタブー」を理解するのが難しいためです。
こうした発言は、相手に不快感を与えてしまう可能性がありますが、本人は悪意なく純粋な興味から聞いていることがほとんどです。周囲がASDの特性を理解し、適切にフォローすることが求められます。
非言語コミュニケーションとは、表情、ジェスチャー、視線、声のトーンなど、言葉以外の要素で気持ちを伝える手段です。実は、私たちがやり取りする情報のうち、言葉そのものの内容は約7%にすぎず、声のトーン(約38%)や表情・身振り(約55%)などの非言語的な要素が、実に9割以上を占めるとされています。
ASDの方はこの非言語的なメッセージの理解や発信が苦手であることが多く、たとえば笑顔が少なかったり、声の抑揚がなく平坦だったりします。そのため、相手に「怒っているのかな?」「感情が見えにくい」と感じさせてしまうことがあります。

ASDの方の話し方には、特性に由来するさまざまな違いが見られます。しかし、それは決して「おかしい」ことではなく、生まれつきの脳の働き方による自然な現れです。ASDの方ご本人が、話し方やコミュニケーションのことで悩んでいる場合は、専門的な支援(ソーシャルスキルトレーニングなど)を受けることで、より円滑な対人関係を築く助けになるでしょう。
一方で、周囲の人がASDの特性を理解し、配慮や工夫をすることもとても大切です。ASDの方と良好な関係を築くためには、「わかりやすい言葉で伝える」「感情的にならずに対応する」「思い込みで判断しない」といった姿勢が大きな助けになります。
誰もが違いを持って生きている中で、相手の特性に寄り添うことは、互いの信頼と安心を育む第一歩です。ASDのある方も、そうでない方も、お互いを理解し合える社会の実現に向けて、小さな工夫を重ねていけたらと願っています。