1990年代、「うつ病」は「心の風邪」と例えられていました。
これは、特別な病気ではなく、誰でもかかる可能性があるというメッセージが込められた表現です。
当時、SSRIという新しい薬が登場し、「心の不調を放置せず、気軽に病院を受診しましょう」という意味合いもありました。
その当時、うつ病の患者数は約70万人でしたが、現在ではその数が140万人にまで増えています。
風邪なら数日間薬を飲んで休めば治るのが一般的ですが、うつ病は10年、20年と治らない人も多くいます。そのため、うつ病を風邪に例えるのは現実的ではないのです。
うつ病の治療に薬を使用した場合、約70%の人は2週間から数ヶ月で元の体調に戻り、平均して1年半ほど通院すれば治療が完了します。
しかし、その半数以上の人が数年以内に再び発症してしまいます。これを「再発」と言います。
再発後の治療期間は初回よりも長く、通常2〜3年ほどかかります。
その後、治療を終えても約80%の人が再び再発するため、3回目、4回目と再発を繰り返すこともあります。このため、うつ病の患者の約半数は、最初の治療が効果的でなかった場合、10年以上も薬を飲み続けているというデータがあります。なぜ、うつ病が再発したり長引いてしまうのでしょうか?
今回は、うつ病が長引く原因について説明します。

うつ病の治療において最も重要なのは休養です。
しかし、医師から「しっかり休んでください」と言われても、すぐにすべての仕事を放り出して休める人はどれだけいるでしょうか。
仕事の責任や生活費の問題、家庭の事情など、休むことが難しい人も少なくありません。
たとえ休んでも職場のことが頭から離れず、完全にリラックスできないこともあります。
また、住宅ローンや子どもの教育費などの経済的なプレッシャーもあり、長期間休養することが難しい場合もあります。そのため、適切な休息が取れず、うつ病が長引いたり再発したりすることは避けられないかもしれません。
これは、マラソンをしながら足の怪我を治すようなものだと言えます。
病院で治療を受けても、うつ病の原因となった心配事が解決するわけではありません。
例えば、家庭やお金の問題は治療を受けても解決しないことが多く、治療中に新たな問題が発生することもあります。人生には予測できない出来事がつきものなので、運やタイミングも治療に大きく影響しますが、それは自分の力ではどうにもならないことです。

処方された薬をインターネットで調べてみると、副作用などのネガティブな情報が書かれていることがあります。医師や薬剤師から副作用の説明を受けても不安になることがあるでしょう。
このため、薬を飲んですぐにやめてしまったり、飲む日を不規則にしてしまうこともあります。
しかし、抗うつ薬は定期的に決められた量を飲まないと効果が出ません。
また、ネットで見かける情報の多くは実証されていないものや個人の意見であることが多いので、疑問があれば主治医や薬剤師に直接相談することが大切です。
うつ病を経験したことがない人には、なかなか理解されにくい病気です。
家族や職場の人から「怠けている」と誤解を受けてしまう人も少なくありません。
「これくらいならできるはず」「いつから復職できるの?」といった何気ない言葉が、患者を傷つけることがあります。
家族や周囲の無理解により、安心して療養できる環境がないと、治るものも治りません。

うつ病の症状には孤独感や絶望感があります。
「自分は社会にとって不要な存在だ」「この先、希望はない」などと感じることで、さらにうつ病が悪化してしまうことがあります。また、元気な人と自分を比較してしまい、その差に苦しむことでさらに自分を追い込んでしまうこともあります。
このような状況では、自然に回復する力が働きにくくなります。
アルコールには一時的にうつの症状を和らげる効果がありますが、長期的には逆効果です。
アルコールを大量に摂取すると、脳に悪影響を及ぼし、うつ病を悪化させます。
うつ病の治療中にアルコールを摂取することは、病気を悪化させる原因となるため、控えることが大切です。
誰もが早く元気を取り戻したいと考えますが、最適な環境で療養できる人は少ないでしょう。
うつ病の回復には時間がかかることが多いため、焦らずに、少しずつ前進していることを実感しながら治療を続けることが大切です。
ストレスが多い現代社会では、うつ病になることは珍しいことではなく、むしろ人生を真面目に生きてきた証拠とも言えます。この病気を通して、無理をしていた自分の生き方を見直し、他者への理解を深めることができるかもしれません。病気を通じて心が成長することもあるのです。