大人の発達障害の一つとして知られる「ASD(自閉スペクトラム症)」は、その特性から、日常生活や職場、対人関係においてさまざまな困難を感じやすい傾向があります。この記事では、ASDの方が特に苦手とされる5つの事柄について詳しくご紹介しながら、周囲の方が取るべき配慮についても考えていきたいと思います。
ASD(Autism Spectrum Disorder、自閉スペクトラム症)は、生まれつき脳の機能に偏りがあることにより、対人関係や感覚の処理などに独自の傾向が見られる発達障害の一種です。かつては「アスペルガー症候群」や「自閉症」などと分類されていましたが、現在はそれらを統合した診断名として「ASD」が用いられています。
ASDの特性は非常に多様であり、個人によって現れ方が大きく異なります。特に対人関係においては、「孤立型」「受動型」「積極奇異型」「尊大型」といった4つのタイプに分かれることがあり、「ASDだからこうだ」と一括りにすることはできません。

私たちは日々、言葉以外にも表情、仕草、声のトーンなど「非言語的手段」で多くの情報をやり取りしています。しかし、ASDの方はこうした非言語的なサインを読み取るのが難しいことがあります。たとえば、相手の表情から感情を推測したり、声のトーンから意図を感じ取ったりするのが苦手です。
また、本人が自分の感情を表現する際にも、適切な表情や声の調子を使うことが難しい場合があります。そのため、相手に誤解を与えてしまうことも少なくありません。こうした背景から、ASDの方には「明確な言語でのやり取り」を心がけることが大切です。あいまいな表現を避け、できるだけ具体的な言葉で気持ちや意図を伝えるようにしましょう。
ASDの方は、会話の流れや全体像を把握するのが難しかったり、聴覚情報を処理するのに時間がかかったりすることがあります。そのため、相手の話をうまく受け取れず、一方的に話してしまう傾向が見られることもあります。
また、自分が興味のある話題には熱心に取り組めても、関心のない話題には興味を持ちにくいという特徴もあります。これは「関心の強さに偏りがある」というASDの特性に由来するものです。
こうした場合、会話での指示や情報共有がうまくいかないこともありますので、文字情報(メモ、チャット、メールなど)を活用するのが効果的です。視覚的に情報を伝えることで、理解を助けることができます。
ASDの方は、「場の空気を読む」「相手の気持ちを推測する」「空気を察して行動する」といったことが苦手な傾向があります。たとえば、職場で「新人は電話を取るべき」といった暗黙のルールが存在していたとしても、それを自然に察知して行動することは難しい場合があります。
このような「言わなくてもわかる」前提は、ASDの方には非常に高いハードルになります。したがって、ルールやマナーは曖昧にせず、明確に言葉にして伝えることが重要です。具体的な行動指針を示すことで、相互のストレスを減らすことができます。
「適当に」「ほどほどに」「だいたいでいいよ」などの抽象的な表現は、人によって解釈が異なるため、ASDの方には非常にわかりにくい言葉です。このようなあいまいな表現では、期待する成果や行動にズレが生じてしまう可能性があります。
ASDの方に何かを依頼する際は、「10分程度」「3割程度」「5枚コピーする」など、具体的で数値化された指示が有効です。わかりやすい言葉で明確に伝えることで、誤解を避け、スムーズなやりとりが可能になります。
ASDの方は、一度取り組んでいる作業から別の作業へと移る「マルチタスク」が苦手であったり、突発的な変更に対して柔軟に対応することが難しいことがあります。職場や日常生活で臨機応変な対応を求められる場面では、大きなストレスや混乱を招きやすいです。
また、「白黒思考(オール・オア・ナッシング思考)」が強い傾向があり、自分の失敗を必要以上に深刻に捉えてしまい、気持ちを切り替えるのに時間がかかることもあります。
このような場合は、過度なマルチタスクを避け、作業を1つずつ順番に行うこと、休憩を取りながら心を落ち着ける時間を持つことが重要です。失敗をしても「少しでも良かった部分」を探し、自分を責めすぎない視点を持つように支援することも大切です。

ASDの方が感じる「生きづらさ」は、その多くが周囲の理解不足や、環境のミスマッチによって引き起こされていることがあります。しかし、ASDの特性に対する理解と、ちょっとした配慮があるだけで、その人の力が存分に発揮される場面は確実に増えていきます。
私たち一人ひとりが、「誰にでも苦手なことがある」という視点を持ち、ASDという特性のある方の感じている困難に目を向けることが、共に暮らしやすい社会への第一歩です。対話を大切にし、必要に応じて専門的な支援を受けながら、誰もがその人らしく生きられる社会を共に築いていきましょう。