長年にわたり、うつ病や摂食障害、パニック障害、心身症などの心の病気がなかなか改善しないことがあります。
通常の治療法や薬が効かず、一般的な経過と異なる場合も少なくありません。
こうした場合、担当医も困惑し、処方が安定しないことがあります。
このように治療が長引く心の病気の背後には、実は軽度の発達障害が潜んでいる可能性があるのです。
発達障害とは、生まれつき脳の発達に偏りがある状態を指します。具体的には、人の気持ちを汲み取ることが苦手であったり、友人を作るのが難しかったり、特定の事柄にこだわりが強かったり、不注意や落ち着きのなさといった特徴が現れます。幼少期に幼稚園や学校などの集団生活でこれらの特徴が目立つようになり、先生の勧めで病院を受診し、発達障害の診断が下されることがあります。そこから治療やサポートが始まるのです。
しかし、軽度の場合は「天然」や「ちょっと変わっている」、「やんちゃ」といった表現で片付けられ、発達障害があることに気づかれないまま成長することも多々あります。発達障害が軽度であるからといって問題がないわけではありません。むしろ、幼い頃から無理をして周囲に合わせようとすることで、大きな負担を抱えながら生活している場合があります。
例えば、自閉症スペクトラム(ASD)の人々は、場の空気を読むことが苦手です。そのため、その場に適さない言葉を発してしまうことがあり、周囲から奇妙な目で見られたり、仲間外れにされたりすることがあります。このような経験を重ねるうちに、人前で自分の意見や感情を抑えるようになりがちです。学校では「おとなしくて良い子」という評価を受けるかもしれませんが、本人は周囲に合わせるために大変な努力をしているのです。

しかし、このような我慢が続くことは難しいものです。高校や大学への進学、一人暮らし、就職など人生の大きな転機が訪れる中で、次第に周囲に合わせることに限界が訪れます。その結果として、心の病気を発症することがあるのです。
こうした場合、精神科を受診しても、医師は現在の症状に対処することに集中し、背後に潜む発達障害には気づかないことが多いのです。発達障害という根本的な原因に気づかないままでは、治療が長期化することになります。これは、心の病気という服の下に、もう一枚「発達障害」という見えない服を重ね着しているようなものです。
この状態を、精神科医の衣笠隆幸氏は2004年に「重ね着症候群」と名付けました。次に、重ね着症候群の特徴について詳しく見ていきましょう。
まず、さまざまな心の病気が長引く場合、重ね着症候群の可能性が考えられます。
統合失調症、心身症、慢性疲労症候群、線維筋痛症などの背後には、自閉症スペクトラム(ASD)が関与していることがあります。また、双極性障害や薬物依存症の背後には、注意欠如多動症(ADHD)が隠れている可能性もあります。さらに、摂食障害、境界性パーソナリティ障害、うつ病、パニック障害の背後には、ASDやADHDのどちらか、もしくは両方が絡んでいることもあります。引きこもり状態で精神科を受診しても病名がつかない場合、軽度のASDが原因であることが考えられ、これも重ね着症候群の一つとされています。
幼少期に若干の発達上の問題があったことが、後にわかることもあります。例えば母親に話を聞くと、言葉の発達が遅かった、歩くのが遅かった、目を合わせなかった、特定の物に強くこだわっていたなどの特徴が思い出されることがあります。また、記憶力が非常に良かったり、一人で遊ぶことを好んで友達を作らなかったという場合もあります。これらは軽度の発達障害のサインですが、当時はそれほど深刻に受け止められず、問題なく成長しているように見えたため、気に留められないことが多いのです。
学校生活においても、発達障害が疑われることなく優秀な成績を収め、有名大学を卒業する人もいます。成績が良いと、先生や家族、そして本人も発達障害の存在に気づきません。しかし、本人は無理をして周囲に合わせている場合が多く、社会に出て仕事に就くと、初めて大きな挫折を経験することがあります。例えば、人間関係が苦手なASDの人が営業職に就いたり、細かい作業が苦手なADHDの人が事務職に就いたりすることで、仕事が上手くいかず、結果的に心の病気を発症することがあります。
このように、重ね着症候群は発達障害に合わない職業を選んでいることが一因であることも多いのです。しかし、発達障害の治療や適切なサポートを受けることで、症状が改善することもあります。例えば、通常のうつ病治療では抗うつ薬が使用されますが、背後にASDがある場合は、少量の向精神薬が効果を発揮することがあります。ADHDが関与している場合は、気分安定薬が有効なこともあります。

治療の一環として環境の見直しも重要です。まず、自分が発達障害を持っていることを自覚し、得意・不得意を理解することから始めましょう。精神科やカウンセリングルームでWAISなどの検査を受けることで、自分の特性を具体的に知ることができます。そして、無理に周りに合わせるのではなく、自分に向いていないことは避け、得意なことに取り組むことで、自分に合った生き方に修正していきましょう。特に、仕事選びにおいては、自分の特性に合った職業を選ぶことが重要です。