発達障害の中でも、自閉スペクトラム症(ASD)は対人関係やこだわり行動に加え、「感覚の異常」もよく見られる特徴のひとつです。中でもあまり知られていないのが、「感覚鈍麻(かんかくどんま)」と呼ばれる状態です。
感覚鈍麻は、一見すると問題がないように見えることもありますが、実際には怪我や健康リスクなど、深刻な影響を及ぼすこともある重要なテーマです。
この記事では、大人のASDにおける感覚鈍麻について、具体的な事例や日常生活での困りごと、そしてそれに対する対策方法を丁寧に解説していきます。
ASDは、発達障害の一つで、脳の働き方に生まれつき偏りがあるために、さまざまな場面で生きづらさを感じやすい障害です。
ASDの主な特徴としては、
といったことが挙げられます。
かつてはアスペルガー症候群や高機能自閉症など、いくつかに分かれていた診断名ですが、現在では「自閉スペクトラム症(ASD)」に一本化されています。
また、ASDの人はコミュニケーションの取り方により、以下のようなタイプに分けられることもあります。
こうした特徴は人によって現れ方が異なるため、個別の理解がとても重要です。

感覚鈍麻とは、光・音・温度・痛みなどの刺激を、一般的な水準よりも感じにくい状態を指します。これは「感覚過敏」の反対の性質です。
たとえば、感覚過敏の人は蛍光灯の光をまぶしく感じすぎたり、日常の生活音が耐えられないほど不快に感じたりします。一方、感覚鈍麻の人は、同じような刺激をあまり感じ取れず、生活に支障が出る場合があります。
ASDの診断基準を定めているDSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル)でも、「感覚の異常(過敏または鈍麻)」は診断の一項目として明記されています。
感覚は非常に個人差が大きく、同じ刺激でも人によって感じ方がまったく異なります。そのため、自分が感じていないことを相手が感じていること、あるいはその逆の状態を理解することはとても難しいのです。
感覚鈍麻があるからといってすぐに生活に支障が出るわけではありませんが、状態によっては重大な事故や健康リスクにつながることもあります。
感覚鈍麻は、五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)に加え、体のバランスや位置感覚にかかわる「固有感覚」「平衡感覚」にも影響を及ぼすことがあります。以下に、それぞれの感覚別に起こりやすい困りごとと、日常でできる工夫・対策をご紹介します。
ASDの人で聴覚が鈍い場合、声をかけられても気づかないことがあります。

感覚鈍麻は、外からは見えにくく、周囲から理解されにくい困りごとです。しかし、ASDの当事者にとっては、日常生活や健康、安全に大きく関わる大切なテーマでもあります。
本人の感覚の違いを責めるのではなく、「違っていて当たり前」「対策で補えることがある」といった姿勢で、支援や工夫を重ねていくことが大切です。
そして、困りごとが深刻な場合には、医療機関や福祉サービスなど専門機関の利用をためらわずに活用することが、安心して生活を続ける第一歩となるでしょう。
誰かの「感じにくさ」に寄り添うことが、共に暮らしやすい社会への第一歩です。