近年、発達障害の理解が進む中で、ASD(自閉症スペクトラム)と診断されている方と一緒に働く機会が増えています。職場の同僚や部下にASDの方がいる場合、うまく意思疎通ができずに困ってしまうことも少なくありません。今回は「ASDの方への正しい伝え方」というテーマで、職場など日常の場面で役立つコミュニケーションの工夫についてお話しします。

ASD(Autism Spectrum Disorder:自閉症スペクトラム障害)は、発達障害の一つです。生まれつき脳の働き方に偏りがあり、対人関係やコミュニケーション、行動面に特徴が見られます。以前は「アスペルガー症候群」や「自閉症」など複数の名称で診断されていましたが、現在では「ASD」として統一されています。
ASDの方には、次のような傾向が見られることがあります:
こうした特徴を理解した上で、正しい伝え方を意識することが、スムーズなコミュニケーションの第一歩となります。
ASDの方が混乱しやすい伝え方には、以下のようなものがあります。
(1)口頭のみでの指示
ASDの方は、耳から入る情報(聴覚情報)の処理を苦手としている場合があります。口頭での説明だけだと、情報を整理しきれず混乱してしまうことがあります。一方で、目で見て理解する視覚情報には強みを持つ方も多く、口頭指示だけでは正しく作業に取り掛かれないこともあります。
(2)曖昧な表現の使用
「できるだけ早く」「適当に」「いい感じに」「あれ、それ、これ」といった曖昧な言葉は、人によって解釈が異なります。ASDの方にとっては、これらの表現は意味がつかみにくく、結果として期待した成果が得られないことがあります。
(3)間接的な表現・言葉の裏の意味
例えば「今日は忙しい」と言ったときに、本当は「手伝ってほしい」という意味を含んでいる場合、ASDの方はその裏の意図をくみ取れない可能性があります。文字通り「忙しいのか」と受け取って終わってしまい、結果として必要な支援を得られないということにもつながります。
(4)冗談・皮肉・社交辞令
「いいですね」といった社交辞令や、「さすがですね(笑)」といった皮肉は、文字通りに受け取られてしまうことがあります。その結果、意図しないコミュニケーションのズレや誤解が生まれやすくなります。
(5)暗黙の了解への依存
職場には、言葉にはされない「暗黙のルール」が存在することがあります。たとえば「新人が電話を取るのが当然」といった習慣です。ASDの方は、こうした言語化されていないルールを理解しにくく、意図せずマナー違反と思われてしまうことがあります。
では、ASDの方に対してはどのように伝えるのがよいのでしょうか。いくつかのポイントをご紹介します。
(1)マニュアル化・テキスト化して伝える
口頭で伝えるよりも、文書やマニュアルにして視覚的に伝えることが有効です。ASDの方は、ルールや手順を明確に示されると、それを忠実に守ることが得意な傾向があります。例えば、業務マニュアルを整備したり、チャットツールなどで文章化した指示を残したりすることで、誤解を減らすことができます。
また、録音して後から聞き返せる環境を整えたり、質問を気軽にできる雰囲気をつくったりすることも大切です。聞き返すことに遠慮してしまう方も多いため、繰り返し確認することが許される環境は非常に重要です。
(2)具体的・定量的な表現を使う
曖昧な表現は避け、数字や具体的な内容を用いて伝えるようにします。
こうした具体性は、誤解を防ぎ、指示通りの行動を促します。
(3)行動の目的をはっきり伝える
言葉と意図する行動を一致させましょう。たとえば、
ASDの方は言葉をそのまま受け取ることが多いため、目的まで含めて明確に伝えることが必要です。
(4)暗黙の了解は明確に言語化する
「なんとなく察してほしい」という考えは捨てましょう。掃除や電話対応など、期待される行動がある場合は、
など、はっきり言葉で伝えるようにします。
ASDの方を職場で受け入れる際には、「合理的配慮」が法律上求められますが、企業側がすべてを一人で抱える必要はありません。実は、企業側も支援を受けることが可能なのです。
たとえば「障害者職業センター」では、企業向けにジョブコーチを派遣してくれる制度があります。ジョブコーチは、障害のある方が職場に適応できるよう支援する専門家です。企業と本人の間に入り、業務の調整やコミュニケーションのアドバイスなどを行ってくれます。
また、就労移行支援事業所を利用している方を雇用した場合は、支援員が就職後もフォローに入ることがあります。業務の教え方や伝え方について、支援員に相談できる体制があるため、安心して雇用を進めることができます。

ASDの方とのコミュニケーションには、いくつかの工夫が必要です。しかし、正しい伝え方を意識すれば、誤解やトラブルを減らし、より良い人間関係を築くことが可能です。
これらの工夫は、ASDの方に限らず、誰にとっても分かりやすい伝え方になります。ぜひ日々の業務に取り入れて、誰もが働きやすい職場づくりを目指してみてください。もし悩んだときは、専門機関の力を借りることも大切です。