〜発達障害・アスペルガー・自閉症スペクトラム〜
「謝ることができない」「謝らないから反省していないように見える」。
こうした指摘を受けて悩むASD(自閉症スペクトラム障害)の方、あるいは周囲にいる方も少なくありません。実際、ASDの特性から「謝る」という行為が難しくなる場面は多く見られます。
この記事では、ASDの方が「なぜ謝れないのか?」その背景を専門的な視点で掘り下げつつ、周囲ができる支援や当事者が意識したい対処法についてもご紹介します。
ASDは、発達障害の一つで、生まれつき脳の機能の一部に偏りがあることによって、社会的なコミュニケーションや行動に特徴が現れる障害です。かつては「アスペルガー症候群」「自閉症」など個別の名称が使われていましたが、現在では「自閉症スペクトラム障害(ASD)」として診断が統一されています。
ASDには、以下のようなタイプがあります。
いずれのタイプでも、対人関係やコミュニケーションの取り方に難しさを抱えやすく、「謝ることができない」という困りごとにもつながっていきます。
ここからは、ASDの方がなぜ「謝ることが苦手」なのか、具体的な5つの理由を見ていきましょう。
① 謝る必要性を感じていない
ASDの方は、挨拶や感謝、謝罪といった「言葉による形式的なやりとり」に意味を見出せないことがあります。たとえば「おはようございます」といった挨拶も、なぜ言わなければならないのか、その目的や効果を理解できなければ、発言に至りません。
「謝る」という行為も同様で、「ただの言葉」と感じてしまい、必要性を感じなければ口に出せないのです。そもそも人間関係の構築に対して積極的でない場合、関係を円滑に保つための「謝罪」の重要性を認識することが難しくなります。
② 謝るよりも「改善点」に思考が向く
ASDの方は、論理的思考や合理性を重視する傾向があります。そのため、過ちが起きたときも「次はどうすればいいか」「何を改善すればいいか」といった問題解決に意識が向きがちです。
一方で、「まずは謝る」ことが求められる日本のような文化においては、こうした行動は「反省していない」と誤解されてしまうこともあります。
③ 自分が悪いと思っていない
たとえば、上司に理不尽に怒られたとき、自分の中では納得していないということもあります。そのような場面で、表面上だけ謝るという行為がASDの方にとっては「意味がない」「自分を偽ることになる」と感じられ、極端な拒否反応が出ることも。
このように、感覚や考え方が定型発達の方と異なるため、「謝るべき」とされる場面でも腑に落ちない限り謝罪ができないという現象が起こりえます。
④ 周囲の状況が見えていない
ASDの特性の一つに「視野の狭さ」があります。ミスや失言によって場の空気が凍りついても、それに気づけないことがあります。他人の感情やその場の空気を読む力が弱いため、「なぜ謝らなければならないのか」がわからないのです。
⑤ 謝ったことで嫌な経験をしたことがある
過去に謝ったことで余計に責められたり、相手の怒りが強まったりした経験があると、「謝るのは危険」「謝っても無意味」と感じてしまうことがあります。このような体験が、次に謝ることへの強いブレーキになってしまうのです。

では、こうした難しさにどう対応していけばいいのでしょうか。ここでは、当事者と周囲の両方が意識できる5つの対策をご紹介します。
① 「反省している姿勢」を伝える練習を
ASDの方は感情表現が乏しいことがあり、本人は反省していても、周囲にはそう見えないことがあります。怒られているときや謝罪の場面では、「俯く」「静かにうなずく」「手を前で組む」など、非言語的なサインを意識的に取ることで、反省の意思が伝わりやすくなります。
② 感謝や挨拶の言葉を増やす
意味を感じない言葉は発言しにくいというASDの特性がありますが、逆に「必要性」を理解できれば、謝罪も含めて言葉を発することが可能になります。
周囲の方が「挨拶をするとこんな良いことがあるよ」といった形でメリットを伝えていくことで、ASDの方が納得感を持って実行できるようになるかもしれません。日常の中で感謝や挨拶を増やしていくことが、人間関係の構築や謝罪の練習にもつながります。
③ ミスをした場合、まずは素直に非を認める
「自分にも非があった」と思える状況であれば、まずは謝ることを意識しましょう。そうすることで、相手からの叱責も短時間で終わることが多く、結果として自分を守ることにもつながります。
④ ミスの理由は「聞かれてから」説明する
ミスをしたとき、事実をベースに説明することは重要ですが、説明のタイミングも大切です。聞かれる前に理由を述べると「言い訳」と捉えられることがあります。
まずは謝り、次に「なぜそうなったのか」を求められたときに丁寧に伝えるようにしましょう。これにより、相手の受け取り方も大きく変わります。
⑤ パニック状態では「言葉が出ない」ことを伝える
ASDの方は混乱したり、強いストレスを感じたりすると、フリーズしてしまうことがあります。このようなとき、何も言えず無言になってしまうことで、さらに誤解を招くことも。
普段から「自分は混乱すると言葉が出なくなることがあります」と伝えておくと、相手にも配慮を促すことができます。

「謝ることができない」というのは、ASDに限らず誰にでも起こりうる困難です。しかし、ASDの方にとっては、それが脳の特性に基づくものであり、周囲とのズレとして現れやすいという点で、より顕著に表れることがあります。
大切なのは、「謝れない=悪い人間」ではないという理解です。謝罪の方法や人との関わり方は学ぶことができますし、それを支える周囲の関わり方にも大きな意味があります。
「なぜ謝れないのか」を知ることは、ASDの特性への理解を深める第一歩。本人にとっても、周囲にとっても、よりよいコミュニケーションへの道が開かれていきます。