障害を持ちながらも自分らしく働きたい。そんな思いを胸に、一歩を踏み出す人が増えています。
昨今では、障害者雇用が進んだことにより、企業内で活躍する障害者の姿も当たり前になってきました。
しかし、それだけにとどまらず、自らビジネスを立ち上げる「障害者起業」という選択肢を選ぶ人も増えています。
その一人が、ウェブ制作会社を立ち上げたAさんです。
彼の経験は、「障害者の自立」や「障害を持つ人の就職支援」に関心を持つ多くの人にとって、大きなヒントとなるはずです。

Aさんはもともと、福祉関係の事業所に勤務していました。真面目に仕事に取り組む毎日。
しかし、ある日を境に心身の不調が続くようになり、やむを得ず退職。
その後は外出すら難しく、家に引きこもる生活が続いたといいます。
そんなAさんが再び社会とのつながりを得るきっかけとなったのが、「就労移行支援」でした。
就労移行支援とは、障害のある人が一般企業での就職を目指すための支援を受けられる福祉サービスです。生活リズムの改善、職業訓練、ビジネスマナー指導など、段階を追って就労への準備を進めることができます。
Aさんは通所を通じて、徐々に自信を取り戻していきました。「人付き合いが苦手だと思っていたけれど、意外と人と話すのは得意なのかもしれない」「パソコンは苦手だと思っていたけれど、ウェブ制作をやってみたら意外とできることが分かった」
——そんな気づきの積み重ねが、彼の未来を変える第一歩になったのです。
Aさんは事業所で出会った支援員の助言を受けながら、HTMLやCSS、WordPressを用いたサイト制作、簡単なデザインなど、ウェブ制作スキルを一つずつ身につけていきました。
最初は難しく感じた作業も、継続することで次第に手応えを感じられるようになったといいます。
訓練を終えた後、フリーランスとして活動を開始。
当初は単発の案件が多かったものの、丁寧な仕事ぶりが評価され、リピーターや紹介を通じて徐々に依頼が増えていきました。
そして、数年後には開業資金も準備できるようになり、自らのウェブ制作会社を設立。
夢だった「社長」としての一歩を踏み出しました。

「会社員時代は、体調が悪くても無理に出勤しなければならず、それがかえって悪循環になっていました。でも今は、自分で時間を調整できます。納期さえ守れば、途中で休むこともできる。無理なく働けるのが一番です」
Aさんは、働き方の中でも、「自由度」と「自己管理」を重視する起業スタイルが、自分には合っていたと語ります。
毎日出社するプレッシャーから解放され、オンラインで全国のクライアントとつながる働き方は、体調に不安のある人にとって理想的ともいえるでしょう。
起業後は、障害者起業家が集うコミュニティに参加したことで、仲間や相談相手もできました。
以前は「人付き合いが苦手」と感じていたAさんも、今では定期的にミーティングに参加し、互いに刺激を受けながら成長しています。
Aさんが起業を志すうえで、最も意識したのが「やりたいことよりもむしろ、できることを見極める」という姿勢でした。
「起業というと夢を語りたくなりますが、現実には苦手なこともある。
例えば、長時間の単調な繰り返し作業などは、自分には向いていないと気づけたのも、事業所での訓練のおかげです」
このように、「できること・続けられること」をベースに自分のキャリアを見直したことが、現在につながっています。実際、支援員との定期的な面談やフィードバックの機会を通じて、自己理解を深められたことは、自立にとって大きなプラスになったといいます。

この記事を読んでいるあなたの中にも、「自分に合った働き方がわからない」「外に出る自信がない」と感じている方がいるかもしれません。
そんなときは、まず就労移行支援事業所に見学に行ってみませんか?
最近では、各地域に複数の事業所があり、クリニックや薬局にパンフレットが置かれていることもあります。見学や体験利用は無料で受けられるところが多く、事前の相談も可能です。
Aさんも、すべては一つの見学から始まりました。
その小さな一歩が、人生を変える大きな一歩になるかもしれません。
「障害があるからこそできることがある」——Aさんの姿からは、そんなメッセージが伝わってきます。無理をせず、自分に合ったペースで、強みを活かしながら社会と関わっていくこと。
それが、障害者の働き方における大切な選択肢のひとつです。
「社長になって、障害を抱える人に優しい社会をつくりたい」。
この志のもとに歩み続けるAさんの姿は、きっと多くの人に勇気を与えてくれるでしょう。
あなたも、自分の可能性を信じて、小さな一歩を踏み出してみてください。
未来は、そこから動き出します。