職場でASD(自閉スペクトラム症/アスペルガー症候群)の方と接していて、「この前言ったのに伝わっていなかった…」という経験はありませんか?
実は、ASDの方には独自の認知特性があり、一般的な指示の出し方や伝え方ではうまく伝わらないことがあります。
しかし、その背景を理解し、伝え方を少し工夫するだけで、コミュニケーションは格段にスムーズになります。この記事では、ASDの特性に配慮しながら、職場での伝達ミスやすれ違いを減らすための4つの実践的な方法をご紹介します。

ASD(Autism Spectrum Disorder)は、発達障害の一種で、生まれつき脳の働きに偏りがあり、対人関係や社会的なやりとりに困難を感じやすい特性を持つ状態です。
以前はアスペルガー症候群や高機能自閉症などに分けられていましたが、現在はすべて「ASD」という診断名に統一されています。
ASDの主な特徴は以下の通りです。
こうした特徴は、職場での指示の受け取り方や報連相のあり方にも大きく影響します。そのため、職場でASDの方と関わる際には、誤解や混乱を防ぐための配慮が重要になります。

職場におけるASDの方とのコミュニケーションで起こりやすいのは、言葉の裏を読み取れないことや、あいまいな指示が通じないことです。以下のような点が「伝わりにくさ」の原因となります。
ASDの方は、言葉の表面的な意味は理解できても、そこに込められた意図や背景を読み取るのが難しい傾向があります。
「その荷物、机に置かないで」と言われても、「どこに置けばいいか」の指示がなければ困ってしまうことがあります。「机に置かないで」という表現の意図が「バックヤードにしまっておいて」だとしても、推察するのは困難です。
ASDの方は比喩表現やあいまいな指示をそのまま受け取ってしまうことがあります。
「この書類チェックしておいて」と言った場合、「ミスがないか確認し、修正までして提出してほしい」という意図であっても、「チェック=目を通すだけ」と理解してしまうと、行動がずれてしまいます。
ASDの特性として、特定の分野に強いこだわりを持つ一方、関心のない業務では集中力を維持しづらいことがあります。
例えば、プログラミングやデザインには高いパフォーマンスを発揮しても、報告書の作成や日常的な引き継ぎ業務は後回しになる傾向があります。
「できるだけ早く」「いつも通りに」といったあいまいな表現は、ASDの方にとっては非常に分かりづらく、行動に移すのが難しいことがあります。
基準が曖昧なままでは、「どれだけ早く?」「何を基準に?」と混乱してしまうのです。

では、どのように伝えればASDの方にわかりやすく、誤解のないコミュニケーションが可能になるのでしょうか?
有効な4つの工夫をご紹介します。
ASDの方は突然の大きな声や強い口調に対して過敏に反応しやすく、パニックやフリーズを起こすことがあります。
そのため、命令口調や急かすような言い方は避け、落ち着いたトーンで丁寧に話すことが重要です。
また、口頭の指示を処理するのに時間がかかる場合もあるため、ゆっくり話すことで理解と記憶の助けになります。
話すスピードを落とすことで、メモを取る余裕が生まれ、後で確認することも可能になります。
会議やグループワークなど複数人が関わる場面では、「誰に言っているか」がわからないまま話が進むと、ASDの方は混乱してしまいます。
例えば、「それでは、この件、ちょっと調べてみてください」ではなく、「〇〇さん、この件について明日までに調べて報告してください」と、名前を明示して具体的に指示することで、伝わりやすくなります。
「~しないで」という否定形の指示は、ASDの方には曖昧に感じられやすいため、なるべく「~してください」と肯定的に伝えるのが効果的です。
例えば、「この荷物は机に置かないで」ではなく、「この荷物は休憩室の棚に置いてください」のように、やってほしい行動を具体的に提示しましょう。
「なるべく早く」「適当に」などのあいまいな表現は避け、数字や時間、場所を明示した具体的な表現に置き換えることが有効です。
「なるべく早めに会議資料をコピーしておいて」より「明日の10時から会議があるので、9時までに30部コピーしてください」といった方が伝わります。
また、1つの指示に情報を詰め込みすぎず、ステップを分けて伝えることも効果的です。
口頭で長い説明を受けると混乱しやすいため、必要に応じてメモやメールなどの文書で補足するのも有効です。

ASDのある方との仕事において、「発達障害だから特別扱いしないといけない」と構えてしまう方もいるかもしれません。しかし、実際に紹介した伝え方の工夫は、誰に対しても有効で、職場全体のコミュニケーションの質を高めるものです。
これらは、ASDの方に限らず、職場の誰もが理解しやすい伝え方です。
つまり、ASDへの配慮は、すべての従業員にとって働きやすい職場環境づくりの第一歩でもあるのです。
ASDの方とのコミュニケーションは、一見難しく感じるかもしれませんが、少しの理解と工夫で大きく改善できます。
ASDの特性を踏まえて、伝え方や接し方を意識することで、仕事の生産性や職場の雰囲気も向上します。
「伝わらない」のではなく、「伝え方を変える」だけで、関係性はぐっとよくなります。
障害の有無にかかわらず、誰もが安心して働ける職場を目指して、今日から実践してみてはいかがでしょうか。