近年、職場や社会のさまざまな場面で「ASD(自閉症スペクトラム障害)」という言葉を耳にする機会が増えています。ASDは、生まれつきの脳機能の一部に偏りがある発達障害の一つであり、一般的には対人関係やコミュニケーションに困難を抱える特性、ならびに強いこだわりを持つ傾向があることが知られています。これらの特性は一人ひとり異なり、見た目では分かりづらいため、周囲の理解や配慮が不可欠です。

ASDの方のコミュニケーションスタイルには主に以下の4タイプがあるとされています。
これらの特徴は、日常生活だけでなく職場環境にもさまざまな影響を与えることがあります。特に、ASDの特性を持つ上司との関係において、部下や同僚が戸惑いやすいポイントが存在します。以下に、ASD傾向のある上司が怒りを感じやすい場面と、その背景にある要因を具体的に見ていきましょう。
ASDの上司が怒るきっかけとその理由
1. 問題が発生するとパニックに陥りやすい
ASDの方は、想定外の出来事に直面した際に柔軟な対応を取ることが苦手である傾向があります。事前の予測ができない状況に直面すると、「どう対処すれば良いか分からない」と混乱し、結果としてパニック状態に陥ったり、フリーズしてしまうことがあります。このような状態は、周囲からは「突然怒り出した」と見えることもあるため、誤解が生じやすくなります。
2. ミスを効果的に解決できず、感情的になる
部下がミスを犯した際、ASDの上司はその原因や改善策を具体的に指導することが難しく、抽象的な注意にとどまることがあります。その結果、同じようなミスが繰り返され、「どうして何度言っても分からないのか」といった怒りが表面化してしまうことがあります。
3. 報告が正確に伝わらず誤解が生じる
ASDの特性として、他者とのコミュニケーションに苦手意識があるため、部下からの報告や相談が正しく理解されず、誤解や行き違いが起こることがあります。これにより、指示と実行にずれが生じ、トラブルの原因となることがあります。
4. ストレスに弱く、突然爆発することがある
ASDの上司は、日常的なストレスを内に溜め込みやすい傾向があります。そしてある日突然、そのストレスが限界を超えて爆発し、感情的に怒鳴ったり、体調を崩してしまうことがあります。仕事に直接関係のないプライベートな出来事が影響することもあり、周囲は理由が分からず困惑する場合もあります。

5. 自分のルールや手順に強いこだわりを持つ
ASDの特性として、「自分のやり方こそ正しい」という信念を強く持っている場合が多くあります。自らのルールや手順に部下が従わなかった際、それを受け入れることができず、怒りや不満を露わにすることがあります。この背景には、「変化」に対する強い不安感や恐れがあるとされています。
ASDの上司とうまく付き合うための対処法
上記のような特性を踏まえ、ASD傾向のある上司と良好な関係を築くには、周囲の接し方にも工夫が求められます。以下に、具体的な対処法を紹介します。
1. 曖昧な表現は避け、明確な言葉を使う
ASDの方にとって、抽象的な表現や感情に基づいた言い回しは理解しにくいことがあります。そのため、伝えたいことは具体的かつ定量的に説明することが大切です。たとえば、「早めに提出してください」というよりも「〇日〇時までに提出してください」といったように、明確な期限を伝えると良いでしょう。
2. 視覚的な情報を活用する
ASDの方は、聴覚よりも視覚を通した情報処理が得意な傾向があります。そのため、口頭での説明だけではなく、メールやチャットで文章にまとめたり、グラフや図を使って視覚的に説明することで、より正確に伝えることができます。
3. 予定の変更は早めに伝える
突然の予定変更に弱いため、変更がある場合は可能な限り早く伝えることが重要です。余裕を持って伝えることで、上司も対応策を考える時間が確保でき、混乱や怒りを防ぐことにつながります。
4. 疑問点は率直に質問する
上司の指示に疑問を感じた場合や納得できない点がある場合、遠慮せずに率直に質問することが大切です。疑問や不安を放置せず、確認を取ることで、上司のこだわりに対しても理解を深めることができ、信頼関係の構築に繋がります。
おわりに
ASDの特性を持つ上司との関係は、時に難しさを感じることもあります。しかし、ASDとは生まれつきの特性であり、本人の努力だけで完全に克服できるものではありません。そのため、周囲の理解と対応の工夫が極めて重要です。

「なぜ怒っているのか分からない」といった一方的な見方ではなく、「なぜこのような反応をするのか」と背景にある特性を理解しようとする姿勢が、円滑な人間関係の第一歩になります。ASDの特性を正しく知り、適切に対応することで、誰もが安心して働ける職場づくりが実現できるでしょう。