私たちの暮らしの中で、「戸締まりをしたか不安になって何度も確認する」「手を何度も洗わないと気が済まない」といった経験をしたことがある人もいるかもしれません。それが一時的なものであり、日常生活に支障をきたしていないのであれば問題はありません。
しかし、これらの思考や行動が繰り返し頭に浮かび、それに強くとらわれてしまい、日常生活や仕事に大きな影響を与えるようになった場合、それは「強迫性障害(OCD)」という精神的な疾患である可能性があります。
本記事では、強迫性障害の概要や症状、原因、治療法について、丁寧にわかりやすくご紹介します。

強迫性障害とは、「強迫観念」と「強迫行為」を主な特徴とする精神疾患です。
この障害は、発達障害、特に自閉スペクトラム症(ASD)に見られる「こだわり行動」と関連性があるとされており、近年では「強迫関連障害スペクトラム」という広い枠組みの中で理解されるようになってきました。
強迫性障害は決してまれな病気ではなく、一般人口の約1.9~3.0%が生涯のうちに経験するとされています。発症の多くは思春期から若年成人にかけて見られます。

強迫性障害の症状は人によって異なりますが、主に以下の4つのタイプに分類されます。
最もよく見られる症状の一つで、「ばい菌に触ったのではないか」「汚れているのではないか」といった強迫観念が湧き、それを打ち消すために手を何度も洗ったり、触れた物を消毒したりします。
例:手を洗いすぎて皮膚が荒れ、ひび割れてしまう。
「鍵をかけ忘れたかもしれない」「ガスの元栓を閉め忘れたのでは?」という不安から、繰り返し確認をしてしまいます。
例:自宅を出た後に不安になり、何度も戻って戸締まりを確認する。
暴力的、性的、宗教的なイメージや考えが頭に浮かび、それに罪悪感や恐怖を感じます。多くの場合、実際には行動に移すことはありませんが、本人は非常に強いストレスを感じます。
例:「誰かを傷つけてしまうかもしれない」と不安になり、自ら警察に相談する人もいます。
物が左右対称でないと落ち着かない、一定の順番で行動しないと不安になるなど、秩序や正確性への強いこだわりが見られます。
例:食事をする際にお皿の位置を何度も調整したり、髭を剃るのに1時間以上かけたりする。

多くの人にも、軽度な「強迫的な傾向」はあります。例えば、「大事な会議の前に何度も資料を確認する」といったことは、むしろ慎重であるとも捉えられます。
しかし、強迫性障害の場合は次の点が異なります:
このような状態が続くと、本人の生活の質が大きく損なわれるため、適切な治療が必要です。

強迫性障害のある人のうち、67%が生涯のうちにうつ病を併発するといわれており、他にも以下のような精神疾患と併存することが多くあります:
これらの疾患との違いを見極めるためには、専門的な診断が重要となります。

強迫性障害の原因は、はっきりとは解明されていませんが、いくつかの要因が関係していると考えられています。
いわゆる「強迫性格」と呼ばれるタイプの人、つまり几帳面で責任感が強く、完璧主義的な傾向を持つ人は、発症リスクが高いとされています。
強いストレス、家庭環境、過去のトラウマ体験などが引き金になることもあります。
特に「セロトニン」という神経伝達物質の働きが弱まっていることが指摘されており、これが脳内の不安や恐怖のコントロールに影響を与えているとされています。

強迫性障害の治療は、主に以下の2つの方法を組み合わせて行われます。
中でも「暴露反応妨害法(ERP)」という技法が有効です。
これは、あえて不安を引き起こす状況に自分をさらし(暴露)、その後に行動を我慢して(反応妨害)、不安が自然に減っていくのを経験することで、症状を改善していく方法です。
たとえば、「手を洗いたくなる状況」にあえて触れ、その後に手を洗わずに我慢することで、「洗わなくても不安は時間とともにおさまる」という体験を重ねていきます。
薬物療法と行動療法を併用することで、より高い治療効果が得られ、再発率も低くなるとされています。
強迫性障害は、本人にとっては非常に辛く、生活のあらゆる場面に支障をきたすことのある病気です。しかし、適切な治療を受けることで、多くの人が症状を軽減し、元の生活を取り戻すことができます。
「これは性格の問題だから」「気にしすぎ」と自己判断せず、少しでも違和感や生活への影響を感じたら、専門機関への相談をおすすめします。
心の病気は見えにくいものだからこそ、理解とサポートが重要です。身近な人が困っている様子があれば、「どうしたの?」と声をかけることが、回復への第一歩になるかもしれません。