近年、「発達障害」という言葉が社会に浸透する中で、特にADHD(注意欠如・多動症)と診断される人が急増しています。これは子どもだけでなく、成人の間でも顕著な現象であり、多くの人が「なぜ今こんなにもADHDと診断される人が増えているのか」と疑問に思っているのではないでしょうか。
この記事では、発達障害、特にADHDの増加の背景を、統計的なデータや社会的要因を交えて丁寧に解説していきます。そして、私たち一人ひとりにできることについても考えていきたいと思います。
発達障害者の人口は、年々増加しています。たとえば、厚生労働省のデータによると、平成28年(2016年)時点で発達障害と診断されている方は約48万人。その内訳は以下のとおりです。
これらは明確に発達障害と診断された人数であり、未診断の方や診断に至っていない方を含めると、さらに多くの方が該当する可能性があります。
特に注目すべきは、学校現場における変化です。小・中・高校生の中で、発達障害、ADHD、学習障害、自閉スペクトラム症などを持つ子どもたちの数が大きく増加しています。
平成20年(2008年)には約1万4千人だったのが、令和2年(2020年)には約9万6千人にまで増えています。わずか12年間で、実に約7倍に増加した計算になります。さらに、ある調査では小中学生の8.8%が発達障害の可能性があるとの結果も出ており、日本全体で約1000万人が発達障害に当てはまる可能性があるという試算もあります。
子どもに限らず、大人の発達障害、特にADHDの診断件数も近年急激に伸びています。以下のようなデータがあります(平成22年〜令和元年の変化)。
つまり、成人のADHD診断数が爆発的に増加しているのです。この背景には、さまざまな要因が重なっています。

1. 認知度の向上と情報へのアクセス
まず大きな理由のひとつは、「発達障害」や「ADHD」という言葉が広く知られるようになったことです。かつては専門家の間だけで語られていたこれらの言葉が、今ではテレビやインターネット、SNSなどを通じて多くの人の耳に届くようになりました。
その結果、「自分ももしかしたら発達障害かもしれない」と感じて専門機関を受診する人が増え、診断件数が増加しています。また、保育園や学校でも発達障害への理解が進んだことで、幼少期のうちに気づかれるケースも増えているのです。
2. 通院者の増加と二次障害の発見
心療内科や精神科に通院する人の数も増加傾向にあります。平成14年(2002年)から平成29年(2017年)の間に、心療内科に通う人の数は約1.6倍になったといわれています。
メンタルの不調をきっかけに受診し、「うつ病」と診断された後に、その根本原因が発達障害であったと判明するケースも少なくありません。特に、大人になってから社会に出て「なんだか人と違う」「仕事がうまくいかない」といった困難に直面し、その背景にADHDがあると分かる場合もあります。
このように、発達障害が二次的にうつ病などの精神疾患として現れ、それをきっかけに診断されるケースが非常に多くなっているのです。
3. 社会環境の複雑化と「生きづらさ」
さらに、現代の社会環境そのものが、発達障害の特性を持つ人にとって生きづらいものになっているとも言えます。
たとえば、かつては「多少空気が読めなくても」「集中が続かなくても」やっていけた職場環境があったかもしれません。しかし今は、マルチタスクやコミュニケーション能力、柔軟な対応などが重視される職場が多く、発達障害の特性が目立ちやすくなっています。
つまり、発達障害の特性そのものが、今の社会では「困りごと」として認識されやすくなっているのです。
ADHDをはじめとする発達障害は、本人の努力や性格の問題ではありません。その人が持って生まれた「特性」であり、環境によって生きづらさが強まることもあれば、活躍できる場面もあるのです。
ここで、私たちができることを2つの観点から整理してみましょう。
1. 特性を理解する
発達障害の特性について、きちんと理解している人はまだまだ少ないのが現状です。「ADHDってどんな特徴があるの?」「どんな困難を抱えやすいの?」と聞かれても答えられない方が多いのではないでしょうか。
しかし、発達障害の方を支援したり、一緒に働いたりするためには、正しい知識が欠かせません。特性を理解した上で、本人がどんなサポートを求めているのか、どんな工夫があれば能力を発揮できるのかを考えていくことが大切です。

2. 偏見を持たない
もうひとつ大切なのは、「偏見を持たない」という姿勢です。
たとえば「発達障害だから仕事ができなくても仕方ない」と考えるのは、理解のようで実はある種の差別です。その考えは、本人の可能性を閉ざしてしまうことにもつながります。
実際には、発達障害のある方でも、特定の業務においては非常に高い能力を発揮することがあります。つまり、その人に合った環境や業務内容があれば、力を発揮できる可能性は大いにあるのです。
ADHDをはじめとする発達障害の診断が増えている背景には、社会の変化と認識の広がりがあります。しかし、それは「問題が増えている」ということではありません。むしろ、「これまで気づかれずに苦しんでいた人たちに光が当たるようになった」とも言えるでしょう。
今後ますます多様な個性が社会の中で共存していく時代において、私たち一人ひとりが理解し、配慮し、支え合っていくことが求められています。発達障害のある人も、そうでない人も、自分らしく生きられる社会を一緒に築いていきましょう。