発達障害のひとつであるASD(自閉スペクトラム症)は、社会的なやりとりやコミュニケーションにおいて独特の特性を持っています。その特性のひとつとして、「本人に悪意はないのに、気づかないうちに相手を傷つけてしまう」という悩みを抱えている方も少なくありません。
本記事では、ASDの方がなぜそのようなコミュニケーションのすれ違いを起こしやすいのか、そしてどのような工夫や対策をとることでより円滑な人間関係を築けるのかを、丁寧に解説していきます。
1. 思ったことをそのまま口にしてしまう
ASDの人は、相手の感情を想像したり、場の空気を読むことが苦手な傾向があります。自分が思ったことや感じたことをストレートに言葉にしてしまいがちで、その発言が相手にとってどのように受け取られるかを事前に予測するのが難しいのです。
たとえば、「その服、似合ってないね」「なんでそんなことしてるの?」といった発言は、本人にとっては単なる感想だったとしても、相手にとっては批判や否定として受け取られてしまうことがあります。こうしたすれ違いは、悪意がなくても人間関係に亀裂を生じさせる原因になりやすいのです。
2. 興味が偏っていて、相手に無関心に見えてしまう
ASDの特性として、興味関心が非常に限定的であることがあります。自分が好きな分野については深く話す一方で、興味のない話題になると無反応になったり、そっけない態度をとってしまうことも。
例えば、同僚が趣味の話をしていても、ASDの人がまったく反応しなかった場合、「この人、冷たいな」「私の話なんてどうでもいいんだ」と思われてしまうことがあります。本人としてはただ興味がないだけで、失礼なつもりはまったくないのに、誤解されてしまうのです。
3. 非言語コミュニケーションが淡泊
多くの人は言葉以外にも、表情や声のトーン、身振り手振りといった非言語的な方法で感情を伝えています。しかしASDの人は、こうした非言語的コミュニケーションを使いこなすのが苦手です。
声に抑揚がなかったり、表情が乏しかったりすると、たとえ好意的な発言であっても冷たく、無機質な印象を与えてしまいます。その結果、「何を考えているかわからない」「感情が感じられない」と思われてしまい、人との距離ができてしまうことがあります。
4. 感覚過敏による反応が誤解を生むことも
ASDの人の中には、匂いや音、光といった感覚に対して非常に敏感な方がいます。たとえば、強い香水や体臭に対して強い不快感を覚える場合、思わず「その匂いきついですね」と直接言ってしまうことがあります。
しかし「匂い」はとてもデリケートな話題。たとえ本音であっても、相手を深く傷つけてしまうことがあるのです。本人としては、単に感じたことを言っただけなのに、それが「無神経な人」として受け止められてしまうこともあります。

ASDの特性は、本人の努力だけで完全に変えることは難しいかもしれません。しかし、ちょっとした工夫や周囲の理解によって、人との関係はよりスムーズなものに変えていくことができます。ここでは、すぐに実践できる4つの改善策をご紹介します。
1. 仕事に関係のない話題は控える
ASDの人が特に注意したいのは、プライベートに関わる話題です。容姿、服装、家族、恋愛、収入など、本人にとっては何気ない話題であっても、相手にとっては触れてほしくない繊細な話である場合があります。
「褒めようとして逆に傷つけた」「何気なく聞いたことが地雷だった」などという事態を防ぐためにも、仕事と無関係な話題は極力控える方が無難です。特に政治や宗教といった価値観が大きく分かれるテーマには踏み込まないようにすることも、トラブルを回避する大切なポイントです。
2. 自分の発言を振り返る姿勢を持つ
もし発言によって相手を不快にさせてしまった場合、その理由を理解しようとする姿勢がとても大切です。
「失言があったら指摘してほしい」と周囲に伝えておくことで、フィードバックを得やすくなります。また、「なぜその発言が良くなかったのか」がわからない場合は、信頼できる家族や友人に相談してみましょう。実際に起きた出来事を一つひとつ振り返り、「どうすればよかったのか」を学ぶことで、少しずつ対人スキルを磨いていけます。

3. 聞き上手を目指す工夫
ASDの人にとって「聞いているふりをする」ことは、悪いことではありません。むしろ、相手に安心感を与えるひとつの方法です。
話をしている相手に対して「うんうん」「そうなんですね」と相槌を打つだけでも、印象は大きく変わります。たとえ興味がない話でも、聞いている“雰囲気”を出すことで、相手は「ちゃんと話を聞いてもらえた」と感じてくれるものです。
4. マスクの活用で感覚過敏をやわらげる
感覚過敏によって人との距離が生まれてしまう場合には、物理的な対策も有効です。
たとえば、においに敏感な方は、マスクを活用することで直接的な刺激を減らすことができます。マスクの内側に自分の好きなアロマを一滴つけておけば、不快なにおいをシャットアウトしながら、リラックスする効果も得られるかもしれません。自分の特性に合わせたアイテムを活用することも、日常生活を快適に過ごす工夫のひとつです。
ASDの方が人を傷つけてしまうのは、決して「性格が悪いから」でも「思いやりがないから」でもありません。その多くは、認知の仕方や感覚の違いに起因する、特性によるものです。
だからこそ、自分自身が「なぜうまくいかないのか」を少しずつ理解していくこと、そして周囲に自分の特性を伝え、理解を得ようとする姿勢がとても大切です。特性を否定するのではなく、「どう付き合っていくか」を考えることで、ASDの方も安心して人との関係を築いていくことができるのです。
他者を傷つけず、自分も傷つかないために。今日からできる工夫を、ひとつずつ試してみてはいかがでしょうか。