自殺の直前に現れた9つの注目|心の健康について考える

はじめに

日本における自殺者数は、2003年以降長らく減少傾向にありました。しかし、2020年の新型コロナウイルスの流行を境に、その流れは大きく変わります。感染症の拡大によって、私たちの生活様式や社会構造が一変し、不安や孤独を抱える人が増加。それに伴い、自殺者数も再び増加に転じました。

2019年の自殺者数はおよそ2万人でしたが、翌2020年には2万1000人を超えています。特に女性や若年層の自殺の増加が顕著であり、これはコロナ禍における女性の雇用不安や、子どもたちの学校生活の変化、家庭内環境の悪化などが複合的に関係していると考えられています。

こうした現状を受け、今私たちに求められているのは「自殺のサイン」に早期に気づき、必要な支援へとつなげる「ゲートキーパー」としての役割です。

本記事では、自殺の背景にある複雑な要因と、その兆候、そして私たち一人ひとりにできる関わり方について考えていきます。

自殺の原因と背景──一つではない「理由」

自殺の原因と背景──一つではない「理由」

自殺に至る背景は極めて多様で、決して一つの原因だけで決断されるものではありません。金銭的困窮、家庭内の不和、仕事上のストレス、人間関係のトラブル、健康上の問題など、さまざまな要素が複雑に絡み合っています。

特に近年注目されているのは「孤立」の問題です。一人暮らしで誰にも相談できない環境にある人、失業により社会との接点を失ってしまった人などは、精神的な負担を抱え込みやすく、自殺のリスクが高まります。

統計的には、自殺者の半数以上が何らかの精神疾患を抱えていることがわかっています。なかでも最も多いのはうつ病で、次いで統合失調症、アルコール依存症などが続きます。精神科に通院していても、それだけで安全とは限らず、回復の過程で衝動性が高まることもあります。また、病名を告げられたショックから絶望感に襲われ、自殺を選んでしまうケースもあります。

さらに、治療薬を過剰に服用して自殺を試みるケースも報告されています。これは適切な服薬管理と周囲の理解の重要性を物語っています。

自殺未遂から見える「その瞬間」の心理

自殺未遂から見える「その瞬間」の心理

救命救急センターには、命を取り留めた自殺未遂の方が多く搬送されてきます。医師やカウンセラーが原因を尋ねても、「気がついたら病院にいた」「そのときの記憶が曖昧」と語る方が少なくありません。

自殺を試みたその瞬間、精神的には極限のパニック状態にあり、「死の痛み」「家族への影響」といった通常なら抑止力となる感情が働かなくなってしまうことがあるのです。

多くの人は、借金、失業、いじめ、家族関係の崩壊といった困難を積み重ねながら、少しずつ希望を失っていきます。そしてある日、ふとした出来事──例えば恋人との別れや友人の何気ない一言がきっかけとなり、衝動的に自殺を実行してしまうのです。

また、アルコールや薬物の過剰摂取は判断力を鈍らせ、自殺のリスクをさらに高める原因となります。酩酊状態での自殺は少なくなく、過度の飲酒は見逃せない警告サインの一つです。

自殺のサイン──「気づく」ことで救える命

自殺のサイン──「気づく」ことで救える命

自殺の危険性が高まっている人は、何らかのサインを発していることが多いといわれています。その兆候を早期に察知し、支援につなげる人を「ゲートキーパー」と呼びます。特別な資格は不要で、誰もが担える役割です。

ここでは、特に注意すべき9つのサインを紹介します。

1. 普段と異なる雰囲気

表情が暗く、元気がない。感情の起伏が激しく、怒りっぽくなったり、逆に不自然なほど明るく振る舞ったりする。興味のあったものに無関心となり、趣味の活動からも距離を置くようになります。

2. 身だしなみの変化

これまで身だしなみに気を配っていた人が、急に化粧やおしゃれに無関心になり、同じ服を何日も着続けるなどの変化が見られます。

3. 自殺をほのめかす発言

「死にたい」「消えたい」といった直接的な言葉に加え、「朝が来なければいい」「誰にも会いたくない」といった間接的な表現も警戒が必要です。自殺方法を調べたり、遺書を用意したり、遺品整理を始めることもあります。

4. 飲酒量の増加

日常的に深酒をし、意識を失うまで飲むことが習慣化する場合は要注意です。アルコールは抑制を外し、自殺行動に拍車をかけるリスクがあります。

5. 危険な行動の増加

無謀な運転、薬物の過剰摂取、極端な夜更かしや無理な労働など、命を顧みない行動が目立つようになります。

6. 体調不良の訴え

食欲不振や体重の急激な減少、不眠、頭痛、腹痛といった症状が続く場合、精神的な病の兆候である可能性があります。治療を中断したり、病状が悪化しているサインでもあります。

7. 引きこもり

学校や職場に行かなくなり、家族や友人とも連絡を取らず、部屋に閉じこもるようになります。社会との接点が減ると、自殺リスクが高まります。

8. 突然の失踪や放浪

家を飛び出し、数日間戻らない、行き先を告げず出て行くといった行動も注意が必要です。これは「解離状態」と呼ばれる心理的な現象で、自分を制御できなくなるほど追い詰められている証拠です。

9. 人間関係のトラブルや喪失

家族や友人とのトラブルがきっかけで、衝動的な行動に出ることがあります。また、大切な人の死、特にアイドルや有名人の自殺などのニュースに影響を受けるケースも見られます。

おわりに──寄り添うことの力

自殺の兆候に気づいたとき、最も大切なのは「相手を否定せず、冷静に耳を傾けること」です。助けを求める声は、必ずしも「助けて」と言葉にされるわけではありません。ちょっとした表情の変化や日常の中の違和感が、大切なサインかもしれないのです。

私たち一人ひとりが「ゲートキーパー」として周囲に目を向けることで、防げる命があります。そして、支える側である私たち自身もまた、孤立しないように、自分の心と体を大切にすることが重要です。

命を守るために、今日からできる小さな行動を、私たちから始めていきましょう。