発達障害に伴いやすい障害として紹介する気分障害は、精神疾患の中でも一般的に有病率が高いとされており、知的障害者においても発病頻度の高い精神疾患といえます。
気分障害において「概念」「疫学」「誘因」「症状」「治療」についての基本的な知識をお話しした上で、知的障害に合併した場合の表面化する症状と隠れてしまう症状を理解し、症状を判断する場合の指標となる言葉や行為について、理解を深めていきたいと思います。
初めに、気分障害の基本は感情の障害で、それに随伴する重要な障害として
「思考障害・意欲行為障害」といったものがあります。
感情の障害として抑うつ感、興味または喜びの喪失があり、これらの症状によって特徴づけられる
「うつ病相」があります。また、高揚気分によって特徴づけられる「躁病相」があります。
日常において、健常者も気分の波は多少経験することはあると思いますが、気分を制御することで生活に支障をきたさないようにしています。
しかし、気分の制御が困難になり、日常生活及び社会的機能において障害を起こしてしまうこともあります。この状態を「気分障害」といいます。
「精神実感の診断・統計マニュアル第4版」(DSM-IV-TR)
・うつ病性障害の生涯有病率 約15%
・女性に絞ると25%
アメリカの国立精神衛生研究所(National Institute of Mental Health:NOMH)
・18歳以上アメリカ国民のうつ病性障害年間有病率 9.5%
・人口にすると2,090万人
・双極性障害は年間有病率1% 生涯有病率2.6%
疫学としては、近年うつ病の有病率が増加しており、DSM-IV-TRの診断基準によるうつ病性障害の生涯有病率は約15%、女性に絞ると25%にのぼります。
アメリカの国立精神衛生研究所の疫学研究によると、18歳以上のアメリカ国民のうつ病性障害年間有病率は9.5%、人口にすると2090万人となります。
また、双極性障害は年間有病率1%、生涯有病率2.6%でした。
では、発病状況と誘因はどうでしょうか。
| 男性 | #業務上の過労 | 女性 | #妊娠・出産 |
| #職務異動 (昇進、左遷、退職など) | #身体疾患 | ||
| #近親者の病気や死亡 | |||
| #家庭内葛藤・転居 | |||
| #子どもの結婚 |
誘因の例としては、男性は業務上の過労や職務異動が多く見られます。一方で、女性では妊娠、出産、近親者の病気や死亡、家庭内葛藤、転居、子供の結婚が多く挙げられます。これらの誘因によって、ストレスの多い生活上の出来事が気分障害の発病に何らかの影響を与えることが示唆されています。

うつ病相 躁病相
「感情面」「思考面」「意欲・行為面」「身体面」
具体的な症状として、気分障害の主な2つの状態は「うつ状態」と「躁状態」です。
一言にうつ状態といっても、「感情面」「思考面」「意欲・行為面」「身体面」の4つから症状を分類することができ、同様に躁状態においても、うつ状態と同様の症状分類ができます。
では、うつ状態から具体的に症状を説明していきましょう。
抑うつ感
「気分が落ち込む」「憂うつ」「気分が晴れない」等
感情減退
「感情が出てこない(特に喜びの感情)」
「何も感じられない」等
まず、感情面では気分が落ち込む、憂うつ、気分が晴れないなどの言葉で表現される抑うつ感があります。
また、特に喜びの感情において感情が出てこない、何も感じられないなどの言葉で表現される興味や喜びの感情の減退が挙げられます。
思考停止
「考えが進まない」「考えが浮かばない」
「本を読んでも理解できない」等
・うつ病の3大妄想
貧困妄想…「入院費が払えない」「家にお金がない」等
罪責妄想…「周りに申し訳ない」と自分を責めてしまう
心気妄想…「不治の病に羅っている」「癌が発病した」等
思考面での症状は、考えが進まない、考えが浮かばない、本を読んでも理解できないなどの言葉で表現される思考停止があります。
また、うつ病に特有の妄想も出現します。うつ病の3大妄想として、入院費が払えない、家にお金がないなどの貧困妄想。周りに申し訳ないと自分を責めてしまう罪責妄想。不治の病に罹っている、癌が発病したなどの心気妄想が挙げられます。
・精神運動制止
意欲や気力の低下、行動レベルとしても活動性低下
仕事や家事等の遂行能力が低下
・うつ病性昏迷
意識は清明だが意思発動が全く行われず、意思の表出や行動が認められない状態
・自殺
うつ病患者の10%~15%が実行
自殺の危険性が高くなるのは回復期
意欲・行為面では気力が低下し、行動レベルとしても活動の低下がみられ、今までできていた仕事や家事などの遂行能力が低下する状態として、精神運動の制止があります。
また、意欲・行為面の障害として最も著しく表れるものに、「うつ病性昏迷」があります。
そして、うつ病患者の10%から15%が自殺を実行しています。自殺の危険性が高くなるのは回復期に多く、自殺を企てることや実行に必要な活動レベルを取り戻す時期は回復期であることから、この時期に自殺の頻度が高いとされています。
・不眠の出現頻度が高い
入眠障害、熟眠障害、中途覚醒、早朝覚醒
・意欲低下
食欲低下(体重減少)、性欲減退
4つ目の身体面の症状としては、不眠の出現頻度が高く、寝つきが悪い入眠障害、寝た感じがしない熟眠障害、途中で何度も目が覚める中途覚醒、朝早く目が覚める早朝覚醒などの症状が発症早期から見られます。
また、意欲低下とも関連が強い身体症状として、食欲の低下や性欲減退も出現頻度が高いとされています。
次に、うつ状態とは反対に躁状態の症状を具体的に説明していきましょう。
躁性感情障害
高揚感、爽快、上機嫌
・被刺激性は亢進
幸福感に浸っているが、些細なことで攻撃的
※被刺激性亢進
心理的な動機から不機嫌な気分の変化を起こしやすいこと
些細な動機から著しい不機嫌や興奮を起こすこと
まず、感情面に現れる症状としては、高揚感、爽快、上機嫌で表現される「躁性感情障害」が見られます。幸福感に浸っている一方で、些細なことで攻撃的になる面もあり、心理的な動機から著しい不機嫌や興奮を起こすことがあります。
・観念奔逸
考えがよどみなく浮かび、次々と展開し、思考目的も次々と変わる状態
・誇大妄想
自分に特別な能力や才能があると確信する妄想
思考面での症状は、「観念奔逸」や「誇大妄想」という用語で表現される症状が表出します。
観念奔逸は、話題が次々と展開し、会話のまとまりが悪くなる状態です。会話がすぐに他の話題へ転導されるため、注意を維持するのが困難になります
誇大妄想は、地位や権力、財力に関連する誤った信念を抱く状態です。「私はアメリカ大統領に立候補する」「大手企業の社長である」という類の発語が見られることが多くなり、誇大性に基づく判断力低下も著明となるため、高額な物品などを抑制なく購入し、家族に経済的な損害を与えることもあります。
・多動
じっとしていられず、動き回るが動きにまとまりがない
・多弁
大声で早口に話し、会話にまとまりがない
※行為心拍
瞬時もじっとしていられず動きまわる状態
躁状態の意欲・行為面では、「多動」「多弁」で表現される活動性の亢進が著明となります。じっとしていられず動き回るが動きにまとまりがない状態になります。また、大声で早口に話し、会話がまとまらなくなり、周囲の人が理解困難となることも多くあります。
さらに亢進していくと、瞬時もじっとしていられず動き回る状態になります。
・睡眠障害が高い確率で出現
3~4時間睡眠、覚醒後すぐ活動的に動き回る
・食欲、性欲の亢進
※身体的には疲弊し衰弱する
身体症状の現れは睡眠障害が高い確率で出現し、3,4時間の睡眠で覚醒後すぐに活動的に動き回ることがあります。しかし、本人に疲労感はなく、食欲と性欲も亢進します。ただし、睡眠障害や極度の活動性亢進によって身体的には疲弊し衰弱していくことがあります。

次は治療についてです。
DSM-IV-TRの気分障害についての記載では、「うつ病性障害」と「双極性障害」に大別され、
うつ病性障害の場合、原則治療の中心は薬物療法と休養になります。
※焦燥感が強い場合、自殺念慮が強い場合などは入院治療
流れとしては、医学的治療が必要な状態であることを納得させる。次に、心身の休養をすすめる。次に、治る可能性の高い病気であることを保証する。自殺しないことを約束させる。重要な現実問題の解決を延期させる。服薬および服薬継続の必要性と、起こる可能性のある副作用を詳しく説明する。
以上が基本的な流れとなっています。
焦燥感の強い場合、自殺念慮の強い場合などは入院治療が必要な場合があります。
・電気けいれん療法
薬物療法で効果が不十分な場合
希死念慮が強い場合
・対人関係療法
人間関係上の問題に焦点を当て、問題解決を図る
・認知行動療法
認知の歪みを認知的・行動的手段を用いて修正
不適応な反応を軽減し、適応的な反応を学習させていく技法
薬物療法で効果が不十分な場合や希死念慮が強い場合、電気けいれん療法が用いられる場合もあります。
また、患者と重要な他者との関係に注目し、患者がそうした人との間で直面している人間関係上の問題に焦点を当て、問題の解決を図る対人関係療法や、認知の歪みを認知的・行動的手段を用いて修正し、不適切な反応を軽減するとともに適応的な反応を学習させていく技法として、認知行動療法が用いられる場合もあります。
・双極性障害
躁状態あるいはうつ状態の病相期をもち、それらの病的状態が繰り返される精神疾患であり、
気分障害の一つ
躁うつ病あるいは双極性感情障害ともいう
・薬物治療
抗躁作用+病相予防作用をもつ気分安定薬
・入院治療
躁病相で逸脱行為が激しい場合、強いうつ病相
双極性障害の場合、躁病相で逸脱行為の多い場合や、強いうつ病相は入院治療を必要とします。
薬物治療としては、抗躁作用+病相予防作用をもつ気分安定薬を使用します。
また、付加的に向精神薬、抗うつ薬も使用する場合があります。
・知的障害児に大うつ病性障害が発病することが多い
いじめや虐待を受けた子どもに発病することが多い
・気分障害の症状
行為障害や身体症状によって覆われ、症状の発見を遅らせる
知的障害と気分障害の関係についてですが、知的障害児に大うつ病性障害が発病することは多く、自分が周囲とは違うところがあると気づいた子どもや、障害があることでいじめや虐待を受けた子どもに発症することが多く見られます。
知的障害を伴う場合、気分障害の症状は行為障害や身体症状によって覆われることがあり、そのことが症状の発見を遅らせることにも繋がります。
このような場合、本人の気分障害の病歴や、双極性障害の家族歴が診断に役立つことがあります。
#感情面
不機嫌な状態継続、悲しみの表出、自殺念慮を意味する言葉
#意欲・行為面
「いつもより元気がない」
「甘えることが多くなった」
「いつもできることができなくなった」(いつもより時間がかかるようになった)などの指標
活動性、退行レベル、作業能率を評価し判断
#身体症状
睡眠障害、発汗、口渇など自律神経症状、身体愁訴により判断
※特に知的障害が重度であり、言語の理解・発話に障害がある場合
行為面の障害や身体症状を注意深く観察することが重要
臨床症状としては知的水準によって臨床症状は異なり、感情面では不機嫌な状態が続いたり、悲しみを表出することが多くなったり、自殺念慮を意味する言葉を使うなどの表現により、症状を判断する必要があります。
意欲・行為面としては、いつもより元気がない、甘えることが多くなった、いつもできることができなくなった、またはいつもより時間がかかるようになったなどの指標により、活動性、退行レベル、作業能率を評価して意欲・行為面の障害について判断します。
また、自傷行為や脅迫行為などの不適応行動も、意欲・行為面の障害について判断することに役立ちます。
身体症状は睡眠障害や発汗、口渇などの自律神経症状。また、身体愁訴によって評価します。
特に知的障害が重度であり、言語の理解、発達に障害がある場合は行為面の障害や、身体症状を注意深く観察することが重要となります。