うつ病は、気分が落ち込む精神的な病気ですが、身体にもさまざまな症状が現れます。それは、心と体が脳を介して密接に関係しているためです。その中でも、体の症状として「痛み」が挙げられます。特に頭、首、背中、腰といった部位に痛みが集中しやすいですが、それ以外にも顔、顎、四肢、関節、陰部、肛門など、多岐にわたる痛みが報告されています。
実際、うつ病患者の約6割が何らかの身体の痛みを経験しているとも言われており、痛みがきっかけで病院を受診した際に、うつ病と診断されるケースもあります。今回は、なぜうつ病によって身体に痛みが生じるのかを解説します。
うつ病による痛みは、内科や整形外科でレントゲンやMRI検査を受けても、明確な異常が見つからないことが多いです。痛みの部位から「緊張性頭痛」や「頚椎症」、「腰椎症」などの診断が下されることもありますが、通常の痛み止めは効果が薄く、リハビリやマッサージを受けても改善しない場合があります。しかし、うつ病が改善するとともに、痛みも和らぐことが多いです。レントゲンやMRIに映らない小さな骨の歪みや神経の損傷があるかもしれませんが、検査結果に基づく予想を超えた痛みが訴えられることが多く、医師に不審な目で見られる患者さんもいます。実際には、脳が痛みを過剰に感じるために痛みが強く感じられるのです。これは、うつ病によって脳の痛みを感じる部分に異常が生じ痛みが何倍にも増幅されるためです。

うつ病になると、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの分泌が減少し、扁桃体が異常に反応するため、痛みが強く感じられます。これが「心因性の痛み」として説明されることがありますが、決して「気のせい」ではありません。特に首や腰などの痛みは、体を動かすたびに痛みを感じさせ、それがうつ病をさらに悪化させるという悪循環を引き起こします。
慢性疼痛という病気もあります。これは、検査で大きな異常が見つからないにもかかわらず激しい痛みが続く病気で、顔面神経痛や頚椎症、腰痛症などが含まれます。通常の鎮痛剤や手術、リハビリでは改善しないことが多く、これもまた脳の扁桃体の異常が関与していると考えられています。
最近では、リリカのように脳内の神経伝達物質に作用する鎮痛剤が処方されていますが、副作用として、ふらつきや眠気が強く出て、服用を継続できない人もいます。慢性疼痛もまた、痛みが気分を落ち込ませてうつ病を引き起こしうつ病がさらに痛みを強めるという悪循環に陥ることがあります。うつ病と慢性疼痛は、どちらが先に起きたのか分からないことが多いです。
うつ病や慢性疼痛の治療には、セロトニンやノルアドレナリンの分泌を促進する抗うつ薬が用いられます。特に、サインバルタのようなSNRIやトリプタノールなどの三環系抗うつ薬が効果的です。通常の痛み止めは、痛み物質であるプロスタグランジンの生成を抑える働きを持っていますが、うつ病や慢性疼痛の場合、脳が過剰に痛みを感じるため効果が限定的です。
以前は、慢性疼痛の患者が整形外科で「心因性の痛みだから精神科に行け」と言われ、傷つくこともありましたが、現在では抗うつ薬を処方する整形外科医も増えています。それでも「心の問題だ」と感じ、抗うつ薬を敬遠する患者さんもいますが、抗うつ薬を服用するのは「気のせい」を治すためではなく、脳が痛みを過剰に感じている状態を改善するためです。

うつ病による痛みについて説明しました。治療を受けているにもかかわらず、なかなか改善しない痛みを抱えている場合、うつ病が関わっている可能性も考えられます。もしそのような痛みで悩んでいるなら、専門家に相談することをお勧めします。