現代の職場においては、円滑なコミュニケーションが仕事の成果に直結することも少なくありません。
しかし、ASD(自閉スペクトラム症/Autism Spectrum Disorder)の特性を持つ方にとって、職場での対人関係やコミュニケーションはときに大きな壁となることがあります。
「ASDだと知られたくない」「誤解されたくない」と思っていても、日常の何気ない会話や言動の中で、周囲に違和感を抱かれてしまうことがあります。
本記事では、職場でASDの特性が現れやすいコミュニケーションのサイン、ASD特性を隠し通すことの難しさ、そして“誤解されない”ための具体的な対処法について、丁寧に解説します。

「いつも通りで」「できるだけ早めに」といった曖昧な表現や、口頭での指示、マルチタスクの対応は、ASDの方が特に苦手とする部分です。
メモを取る習慣がなかったり、同時進行での処理が難しいことで、業務のミスや遅れにつながるケースがあります。
声のトーンや大きさ、身振り手振り、表情などの「非言語コミュニケーション」を扱うことが難しく、無機質な印象を与えてしまうことがあります。
相手に冷たい・感情がないように受け取られることがあり、誤解される原因となることも。
本音と建前の使い分けが難しいASDの特性により、相手にとって不快な内容を悪気なく口にしてしまうことがあります。
たとえば、上司の見た目に関する発言や、場にそぐわない率直なコメントが、職場の人間関係に影響を及ぼすことがあります。
曖昧な質問や急な意見の求めに対して、適切な受け答えができないことがあります。
質問の意図が読み取れず、返答に時間がかかったり、話せなかったりすることで、誤解を招く場面もあります。
人間関係の「適切な距離感」をつかむことが苦手なため、職場では通常避けるようなプライベートな質問や発言をしてしまい、相手を驚かせることがあります。
悪意がなくとも、不適切な印象を持たれてしまうことがあります。
「いつでも相談してね」と言われれば、相手の都合を考えず本当に“いつでも”相談してしまうなど、言葉をそのまま受け取ってしまいがちです。
皮肉や冗談、社交辞令をそのまま真に受けて行動してしまい、トラブルにつながることがあります。
職場特有の「空気」や「暗黙のルール」に気づかず、NGワードを言ってしまうことがあります。
たとえば、犬好きな上司の前で犬の悪口を言ってしまうなど、「察する力」が求められる場面で困難を感じるケースも多く見られます。

ASDと一口に言っても、その症状や程度は人によって大きく異なります。
比較的目立ちにくいタイプの方もいれば、少し話しただけでその特性がはっきりと伝わってしまう方もいます。そのため、「隠し通せるかどうか」は個人差が大きく、一概に答えを出すことはできません。
ただし、ASDのコミュニケーション傾向が顕著に現れている場合、それを周囲が“ASD”だと判断しなくとも、「なんとなく変だな」「話しづらいな」といった違和感を抱かれることは少なくありません。
また、当の本人が自分の困難さに気づいておらず、対応をうまくできないことも、職場トラブルにつながる要因になります。
このような場合、状況によっては無理に隠し通すのではなく、信頼できる上司や人事担当者に相談し、配慮や支援を受ける選択肢も検討する価値があります。
カミングアウトが必ずしも最適とは限りませんが、「困っていることを伝える」ことで環境を整える第一歩になることもあるのです。

曖昧な指示があった場合は、その場で確認することが重要です。
「この資料とは何を指しますか?」「何部印刷すればよいですか?」といった具体的な質問をすることで、誤解やミスを防ぐことができます。
質問をすることで「空気が読めない」と思われることを恐れるよりも、的確に指示を理解して行動する方が信頼につながります。
非言語的な表現が苦手な場合でも、話す際に「、(てん)」「。(まる)」の位置で一呼吸置くことを意識するだけで、会話の抑揚が生まれます。
これにより、一本調子の話し方が緩和され、相手に安心感を与えることができます。
また、相手の話すスピードに合わせる意識を持つことで、自然なコミュニケーションが生まれやすくなります。
容姿や服装、恋愛、家族、政治・宗教といったデリケートな話題には極力触れないようにするのが無難です。思ったことを率直に口にしてしまいがちなASDの特性から、こうした話題は特に注意が必要です。
もし相手から振られた場合も、「お似合いですね」「素敵ですね」など、あらかじめ肯定的な返しを決めておくことで、不要なトラブルを防ぐことができます。
ASDの特性は、個人の努力で完全に「隠す」ことが難しい場合もありますが、適切な工夫や周囲の理解を得ることで、職場でのコミュニケーションを円滑にすることは可能です。
大切なのは、「自分の特性を正しく知り、それに合った工夫をすること」、そして「無理をせず、必要なサポートを得ること」です。
誰もが働きやすい職場をつくるために、自分自身を守る選択肢も大切にしてください。