平日の朝、いつもの挨拶から始まる職場。和気あいあいとした会話の中にふと違和感が混じる瞬間が
あります。
「最近ゴルフの練習もしてない」
「なんとなく気持ちが乗らない」
「音楽も聴いていない」
――そんなさりげない言葉に、本人も気づかないSOSが潜んでいることがあります。
この物語は、ある若手社員・山本君の様子を通して、職場に潜むメンタルヘルスの問題に光を当てるものです。彼は日常の雑談や業務の場面で少しずつ異変を見せ始めます。

山本君は、かつて週末はアウトドアやライブに出かけるような活動的な若者でした。
しかし最近は
「何もしていない」
「寝ていたら終わっていた」
と語り、以前のような意欲が感じられません。
さらに「音楽も聴かなくなった」「ゴルフの練習もしていない」といった言葉からも、彼が好きだったことへの興味が薄れていることが読み取れます。
これはいわゆる「興味や喜びの喪失」と呼ばれる症状で、うつ状態やメンタル不調の初期サインの一つです。

職場では、先輩や上司の声かけに対して「何の話でしたっけ」「すいません、まだ何も手をつけていません」と、山本君の返答が増えていきます。
資料作成の依頼やミーティングの内容が頭に入らず、以前ならスムーズにこなしていた仕事にミスや遅れが出てきます。
また、会議中に
「昨日は一睡もできなかった」
「話を聞いていませんでした」
といった言葉が出るようになります。
明らかな睡眠障害も重なり、集中力や注意力が著しく低下している様子が見受けられます。
こうした変化に対して、周囲は「忙しかったから疲れてるだけかも」「誰にでもそういう時期はあるよ」といった言葉で流してしまいがちです。しかし、それが長期にわたって続いている場合は、単なる疲れとは異なります。

山本君はやがて、複数の身体症状に悩まされるようになります。頭痛、胸の痛み、吐き気、目まい、耳鳴り、そして食欲不振による急激な体重減少。
本人は精密検査を受けても「異常なし」と診断され、原因がはっきりしないことに不安を感じています。
このようなケースでは、身体に現れている症状が、実は心のストレスからくる「身体化症状」である可能性が考えられます。
心の不調が身体の痛みや違和感として現れることは少なくありません。
特に若年層では、自分のメンタルの異変に気づきにくく、「体の問題だ」と思い込んでしまうことがあります。

物語の終盤、山本君は上司に「仕事を辞めたい」と打ち明けます。
「同じミスを繰り返す」
「人間関係もうまくいかない」
「何のために働いているのかわからない」
――そういった言葉には、深い苦悩がにじみます。
さらに彼は「退職代行を使って辞める夢を見る」「もう毎日が限界」と語り、もはや一人では抱えきれない精神状態にまで追い詰められています。
ここでようやく、周囲は山本君が発していた小さなサインの数々が、深刻な問題であったことに気づくのです。

この物語を通して、私たちが学ぶべきことは「小さな変化を見逃さない」ことです。趣味に興味がなくなる、表情が沈んでいる、ミスが続く、体調不良を繰り返す
――こうした変化は、心が出している警告の可能性があります。
そして、何よりも大切なのは「声をかけること」です。
「最近大丈夫?」「無理してない?」といった一言が、苦しんでいる本人にとっては支えになります。
特に上司や先輩など、立場的に気づきやすい存在が「相談してもいい雰囲気」を作ることが重要です。
また、会社としても産業医や社外カウンセラーとの連携を強化し、本人だけに問題を背負わせない体制づくりが求められます。

メンタルの不調は、はじめは本人でさえ気づかないほど小さな変化として現れます。
しかしそれが蓄積されると、やがて心身のバランスを崩し、退職や生活の困難といった深刻な結果を招くことになります。
「最近なんだか元気がないな」と思ったら、その背後にある声なき叫びに耳を傾けてみてください。
そして、困っている人に「あなたは一人じゃない」と伝える一言を忘れないようにしましょう。
働くすべての人が、自分らしく安心して働ける環境を目指して
――今こそ、私たちの意識が問われています。