ASD(自閉症スペクトラム)と「自閉症」や「アスペルガー障害」は違いますか?

はじめに:似ているけれど、範囲が違う

「ASD(自閉症スペクトラム障害)と自閉症、アスペルガー障害はどう違うの?」という疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。これらは全て、社会性やこだわりの強さなど、共通する特性を持った発達障害ですが、診断の基準や定義は時代によって変化しています

現在では「ASD(自閉症スペクトラム障害)」という言葉が主流になっていますが、以前は「自閉症」や「アスペルガー障害」など、より細かく分類されていました。この記事ではその違いと、診断基準の変更によって何が変わったのか分かりやすく解説します。

ASD(自閉症スペクトラム障害)とは?

ASD(自閉症スペクトラム障害)とは?

ASD(Autism Spectrum Disorder:自閉症スペクトラム障害)は、社会性の困難さやこだわりの強さが特徴的な発達障害です。知的障害や言語の遅れがある場合もあれば、全くない場合もあります。

ASDの特徴は以下のような点に集約されます。

  • 人との関わり方が独特だったり、苦手だったりする(社会性の障害)
  • 特定の物事への強いこだわりや、習慣の変化への抵抗がある
  • 感覚の過敏さや鈍感さ(音、光、触覚など)

診断基準の変化:DSM-5でASDに一本化

2013年にアメリカ精神医学会が定めた診断基準「DSM-5」において、従来は別々だった複数の診断名が「自閉症スペクトラム障害(ASD)」に統合されました。それまでは以下のように、ASDに関連する状態が細かく分類されていたのです。

以前の分類:4つの「自閉症関連の診断」

ASDは、かつて「広汎性発達障害(PDD)」と呼ばれるグループに属していました。このグループには、以下のような診断名がありました。

自閉症(カナー型自閉症)

  • 1940年代にレオ・カナーによって記述された
  • 言語の発達が大きく遅れ、知的障害を伴うことが多い
  • 他者との交流が非常に困難
  • 比較的重度なタイプとされる

高機能自閉症

  • 自閉症のうち、知的障害を伴わないタイプ
  • 言語の遅れはあるが、自閉症よりも軽度
  • 知的水準は平均以上のこともあり、発見が遅れがち

アスペルガー障害

  • 知的障害も言語の遅れもない
  • 言葉は達者で学力も高い場合が多いが、対人関係の苦手さや強いこだわりが目立つ
  • 外見上は“普通”に見えるため、学校や職場で困りごとが目立ちやすい

特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)

  • 自閉症やアスペルガー障害にはっきりとは当てはまらないケース
  • 境界的グレーゾーンと呼ばれることもあり、最も多く診断された時期もある

何故ASDに統合されたのか?

分類の難しさが課題に

上記のような分類は一見細かい配慮のようにも思えますが、実際の診断現場では明確に区別することが難しく、「どこにも当てはまらない」として特定不能の診断(PDD-NOS)が多用されるケースもありました。

また、同じ診断名でも症状の現れ方や重さに大きな個人差があり、診断名だけでは支援の方向性が不明確になるという問題もありました。

DSM-5で「自閉症スペクトラム」に統合

こうした課題を受けて、DSM-5では従来の4つの診断名を全て「ASD」に統合し、1つの連続体(スペクトラム)として考えるようになりました。

統合された診断名

  • 自閉症(カナー型自閉症)
  • 高機能自閉症
  • アスペルガー障害
  • 特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)

診断名変更によるメリットとデメリット

メリット(長所)

  • 核となる特性に基づいて診断されるため、支援が一貫しやすくなった
  • スペクトラム(連続体)として捉えることで、軽度~重度まで幅広いケースに対応
  • グレーゾーンの人も含めて、社会的認知が高まり、理解が進んだ

デメリット(短所)

  • IQ50の重度の人と、IQ130の高知能の人も「ASD」という同じ診断名になる
  • 診断名だけでは、その人の支援ニーズや特性が把握しにくくなった
  • 軽度な人ばかりに注目が集まり、重度の人への支援が後回しになりやすいという指摘もある

まとめ:ASDは“新しい括り方”であり、従来の診断名とは範囲が違う

まとめ:ASDは“新しい括り方”であり、従来の診断名とは範囲が違う

自閉症」や「アスペルガー障害」は、それぞれASDに含まれる特定のタイプを示す用語であり、現在は診断名としては使われなくなりました。

ただし、特性そのものは今も変わらず存在しています。ASDは、これまで個別に扱われていた様々な特性を包括的に捉えることで、より柔軟で個別的な支援ができるようにするための診断枠組みです。

今後も「自閉症」や「アスペルガー」という言葉が使われることはあるかもしれませんが、それらはASDという広い枠の中に含まれているという理解が重要です。