今回のテーマは「過呼吸発作とパニック障害」についてです。日本の救急外来を訪れる患者の約70%が、胸の痛み、息苦しさ、動悸など、心臓や呼吸に関する症状を訴えます。しかし、そのうち約半数は、検査でも内臓に異常が見つからず、神経性の不安発作であると診断されることが多いです。このように、不安発作は非常に頻繁に見られる病気です。
不安発作とは、不安を引き金にして起こる、胸の痛み、動悸、めまい、息苦しさ、手足のしびれ、消化器症状など、自律神経の異常による発作的な症状を指します。心理的な原因が明確でなくても、ストレスの蓄積や寝不足、過度な運動などが原因で発症することがあります。特に「死んでしまうかもしれない」「気が狂うのではないか」という強い恐怖感が伴う場合、それをパニック発作と呼びます。
不安発作の中でも最も一般的なのは、思春期から30代の女性によく見られる過呼吸発作です。正式には「過換気症候群」と呼ばれ、不安や恐怖を感じた後に呼吸が浅くなり、息ができない感覚に襲われます。さらに、動悸や胸痛、手足のしびれ、痙攣、湿疹などが現れることもあります。これは、不安や恐怖によって呼吸中枢が過度に刺激され、呼吸が速くなり、結果的に血中の二酸化炭素が低下するために起こります。ただし、命に関わることはありません。
過呼吸発作の対処法としてよく知られているのは「ペーパーバッグ法」です。これは、紙袋を口に当てて呼吸をさせることで、血中の二酸化炭素を増やす方法です。しかし、近年の研究ではこの方法がほとんど効果がないことがわかってきました。さらに、窒息による事故が報告されたことから、現在ではこの方法は推奨されていません。
不安発作に対する薬を使わない対処法としては、呼吸法が有効です。基本的には、息をゆっくりと吐く時間を長くすることが大切で、7秒かけて息を吐き、3秒で吸うようなペースで呼吸します。リラックスした呼吸をするためには、腹式呼吸が効果的です。不安発作を経験したことがある人は、普段から腹式呼吸を練習しておくことをお勧めします。
不安発作は一度経験すると、何度も繰り返すことがよくあります。これは、発作が起きやすい神経の興奮状態が持続するためで、似たような状況に遭遇すると再び発作が引き起こされるのです。特に、強い不安が伴うパニック発作は習慣化しやすいものです。さらに厄介なのは、発作が習慣化してくると、「また発作が起きるのではないか」と不安に感じるようになることです。この不安を「予期不安」と呼びます。予期不安が発作の引き金となることも多く、予期不安があると、それを頭の中で抑え込もうと考えすぎてしまい、結果的に神経が興奮状態になり、発作が引き起こされてしまいます。仕事を終えてリラックスしている時や、入浴中であっても、発作のことを考えてしまい、不安に陥り、発作が起こることもあります。
このように、パニック発作が繰り返され、予期不安が強くなる場合、パニック障害やパニック症と呼ばれる状態になります。パニック障害の初期の発作は、飛行機や満員電車など、特定の状況で発症することが多く、その後も同じ状況に直面するたびに発作が起こり、習慣化します。悪化すると、狭い場所や混雑した劇場、スーパーなども利用できなくなることがあります。また、予期不安により一人でいることが難しくなり、家での留守番すらできなくなることもあります。この状態が長く続くと、引きこもりやうつ病に発展することもあります。さらに、不安を酒で紛らわそうとし、アルコール依存症に陥るケースもあります。
パニック障害とは、脳が本来持っている危険を察知する能力が過剰に働いてしまっている状態です。例えば、火災報知器の感度を高めすぎると、ちょっと料理をしただけで警報が鳴ってしまうように、脳が危険を敏感に察知する状態になっているのです。しかし、自分の意思でこの感度を元に戻すことはできません。通常の感度に戻すためには、脳が安全だと自然に認識していく必要があります。
パニック障害の治療としては、まず心配事や過労、寝不足を解消することが大切です。軽症の場合は呼吸法で改善することもありますが、精神科での薬物療法が効果的です。放置すると慢性化する恐れがあるため、無理をせず早めに受診することをお勧めします。発作時に抗不安薬を服用することで発作を抑えることができ、予期不安にも効果があります。このように薬で発作を抑える自信をつけることで、自然治癒が進むのです。安心感を保つことにより、脳の警報機能が正常に戻っていきます。
抗不安薬としては、コンスタンやソラナックスといったものがよく使われます。また、慢性化した場合や軽症でない場合には、脳の興奮状態を抑えるために、SSRIという薬が用いられます。日本では、レクサプロ、ジェイゾロフト、パキシル、ルボックスなどが処方されており、これらは長期間服用する必要があります。
過呼吸発作や不安発作が繰り返し起こる場合は、パニック障害を疑うべきです。心臓の病気かと思ったら、実はパニック障害だったという話はよく聞きます。早めに治療すれば、短期間で改善することができますが、パニック障害の治療には時間がかかることが多いです。10年以上薬を服用する人も少なくありません。焦らずに治療に取り組んでいきましょう。