
今回は「ASD(自閉スペクトラム症)の人が、他人に何かを求めると嫌われやすくなってしまう」
というテーマについて解説していきます。
ASDの方が社会の中で人と関わっていくうえで、
「お願いをする」
「協力を求める」
といったごく自然な行動が、なぜか誤解を招き、
人間関係をこじらせてしまうケースが少なくありません。
その背景には、ASDの特性と、社会における「信頼のバランス」という考え方があります。

ASD(Autism Spectrum Disorder)は「自閉スペクトラム症」とも
呼ばれる発達障害の一種です。主な特徴は以下の通りです。
ASDは幼少期に診断されることもありますが、近年では10代〜成人後
に初めて自覚するケースも増えており、特に「生きづらさ」として
悩みを抱えて相談する人も多くなっています。
この特性の影響により、ASDの人が他者に「お願い」や「要求」をする際に、
無意識のうちに相手に負担をかけてしまい、結果的に関係が悪化することがあります。

人間関係には、「信頼残高(しんらいざんだか)」という考え方があります。
これは銀行口座にたとえるとわかりやすい概念で、
「相手に対してどれだけ与えたか」
「どれだけ求めたか」
のバランスを表しています。
このバランスが崩れ、「引き出し=要求」が多くなると、相手から「奪ってばかりいる」
と感じられ、信頼残高がマイナスになりやすくなります。
これが「嫌われる」「距離を取られる」といった結果につながってしまうのです。

ASDの人が無自覚に相手に対して多くを求めてしまい、「信頼の借金」が
積み重なるケースは少なくありません。以下のような行動がその原因となることがあります。
このような行動は、本人に悪気がないとしても、
受け取る側からすると
「押しつけ」「身勝手」
と感じられてしまうことがあります。

一般的には、「要求の見せ方を工夫する」ことで相手の印象を和らげることができます。
たとえば:
しかし、ASDの特性上、これらの「見せ方の工夫」は非常に難しい場合があります。
つまり、ASDの方にとって「要求の伝え方」をソフトにすること自体がハードルになるのです。

それでも、人との関係を良くしたい、嫌われたくないという気持ちは誰にでもあるはずです。
ASDの特性を踏まえたうえで、無理のない範囲でできることをまとめると、
次の3つが現実的な対応策になります。
1. 要求をできるだけ減らす
本当に必要なこと以外は、できるだけ自分で解決できる方法を探す、
あるいは他の手段で代替できないかを考える習慣をつけましょう。
頼らないことは悪いことではなく、むしろ自立の一歩です。
2. 提供を増やす
相手に何かを求める前に、自分から何かを「与える」ことを意識してみましょう。
小さなことでもかまいません。たとえば、挨拶をする、感謝を伝える、
相手の困りごとに気づいて手助けする、などがそれにあたります。
3. 見せ方の練習を少しずつ
見せ方の練習には限界もありますが、少しずつ改善していくことは可能です。
無理をしすぎない範囲で、時間をかけて少しずつ練習することが大切です。

ASDの特性がある方にとって、「見せ方の工夫」や「人付き合いの駆け引き」
はどうしても苦手な部分になりがちです。
その事実を受け入れることは、決してあきらめではなく、
「自分に合った方法で工夫する」ためのスタートラインです。
完璧を求めすぎず、自分の特性や限界を理解しながらも、少しずつ
「要求を絞り」
「提供を増やす」
ことで信頼関係を築いていく。
その積み重ねが、やがて自然な人間関係や居場所につながっていくでしょう。