近年、精神科や心療内科の外来でよく尋ねられるご質問のひとつに「アリピプラゾール(商品名:エビリファイ)は太りますか?」というものがあります。今回はこの疑問について、できるだけ丁寧に、そしてわかりやすく解説していきたいと思います。
回答の結論:太る人もいるが、一般的には太りにくい薬です
まず結論からお伝えすると、「アリピプラゾールで太る人もいるが、全体としては体重増加が少ない薬」とされています。他の抗精神病薬と比べると太りにくい傾向があり、むしろ「体重増加しにくい薬」として知られている面もあります。しかし、個人差があることは否定できず、「太った」と感じる方がいるのも事実です。
アリピプラゾールとはどんな薬?
アリピプラゾールはもともと統合失調症の治療薬として開発された抗精神病薬です。しかしその後、躁うつ病(双極性障害)やうつ病など、さまざまな精神疾患にも効果が認められ、現在では広い範囲で使われています。とくにうつ病に対しては、他の薬と組み合わせて用いる“増強療法”の一環として処方されることが増えています。
アリピプラゾールは、比較的副作用が少ないという評価から、クリニックや外来でよく処方されるようになりました。その中でも注目されているのが、次のような長所です。
アリピプラゾールの主な長所
• 他の抗精神病薬と比べて体重が増えにくい
• 血糖値が上がりにくい(ただしゼロではありません)
• 鎮静(眠気)作用が弱めで、日中の活動に影響しにくい
一方で、以下のような短所・注意点もあります。
アリピプラゾールの短所・副作用
• 効果に「相性」があり、特に統合失調症では合わない場合がある
• 不眠になる方が一定数いる
• 足がムズムズして落ち着かない「アカシジア」が出ることがある
実際に薬を中止する主な理由としては、不眠、アカシジア、病状の不安定化などが挙げられます。
それでも「太るのでは?」という不安が広がっている理由

「アリピプラゾールは太る薬だと知人に言われた」という方や、「ネットで調べて不安になった」という方も多くいらっしゃいます。このような“薬に対する印象”はどのようにして広まったのでしょうか。
背景のひとつとして、薬の添付文書に「体重増加」「高血糖」といった副作用が記載されるようになったことが挙げられます。実際にはごく一部のケースであるにもかかわらず、それが大きく受け取られ、「太る薬ではないか?」という不安に繋がっているのかもしれません。
また、ネット上での体験談などが“イメージ先行型”の印象を助長してしまうこともあります。
実際に太る人もいるが、すべてが薬のせいではない
アリピプラゾールを服用して体重が増えたと訴える方は確かに存在します。しかし、そのすべてが薬の直接的な影響とは限りません。以下のような点も慎重に見ていく必要があります。
• 他に服用している薬(例えば体重増加が強く出やすい薬)との併用
• 運動不足、過食、ストレスなど生活習慣の変化
• 実際には体重が増えていないのに「増えた気がする」という不安先行の認識
このように、「本当に薬の影響なのか?」「他の要因ではないか?」を冷静に確認する視点が大切です。
副作用には2種類ある:実際に多いものとイメージ先行型
副作用について考える際は、次の2つに分類して考えると理解がしやすくなります。
実際に多く見られる副作用
• オランザピン:体重増加が顕著
• ラモトリギン:薬疹(皮膚の発疹)が出やすい
• スルピリド:生理不順(高プロラクチンによる)
イメージが先行している副作用
• SSRI(抗うつ薬)は太るのでは? → 実際には人による
• 向精神薬で認知症になる? → 近年は否定する報告も多い
• アリピプラゾールで太る? → 場合によるが、過剰な心配は不要
ただし注意すべきは、「イメージ先行型」の副作用でも実際に起こることがあるという点です。副作用の存在を否定するのではなく、冷静な見極めと判断が求められます。

副作用が心配になった時、どのように対処すればいいのでしょうか。以下の3つのステップが有効です。
① 事実関係を冷静に確認する
• 薬の服用や増減と症状の変化に因果関係があるか?
• 生活習慣や食事、ストレス要因は変化していないか?
• 実際に体重はどれほど変化しているのか?
② 効果と副作用の「重み」を比べる
すべての薬には少なからず副作用が存在します。その副作用が自分の生活にどのくらい影響しているかを見極めることが大切です。
• 軽度の副作用なら継続可能か?
• 効果の実感が強いなら、副作用は許容できる範囲か?
• 副作用が強く、効果が乏しいなら薬の見直しが必要か?
③ 治療の目的と薬の役割を見直す
「この薬を使って何を治したいのか」「どう良くなっていく予定か」を再確認することで、服薬の意義が明確になります。目標がはっきりすると、副作用への不安も和らぎやすくなります。
薬をやめるリスクと、変更する際の注意点
「副作用が気になるから薬をやめたい」と思っても、やめることで症状が再発・悪化する可能性もあります。薬を変更する「変薬(へんやく)」にも相性の問題があり、不安定になるリスクがあることを忘れてはいけません。
また、目に見えない効果も大切にしましょう。例えば、抗うつ薬の再発予防効果は飲んですぐに体感できるものではありません。一方で、副作用はすぐに感じやすく、そちらが目立ってしまいがちです。全体像を見たうえで冷静に判断することが必要です。
アリピプラゾールは、抗精神病薬の中では比較的体重が増えにくい薬です。しかし、人によっては体重増加が見られることもあり、一概に「絶対に太らない」とは言えません。
不安になったときには、
• 冷静に事実を確認する
• 効果と副作用のバランスを見直す
• 治療の目的を再確認する
この3つを意識して、主治医と相談しながら治療方針を立てることが重要です。見えにくい効果や将来のリスクを含めて総合的に判断することで、安全で納得のいく治療につながるのではないでしょうか。